H1 KIZZNA 紲 きずな 見えなかった景色が見えてくる「気づきのマガジン」2015 Autumn Vol.5 TAKE FREE!! ご自由にお持ち下さい つながる、 心と心 FROM HEART TO HEART パラアスリートを支える リーダーのロングインタビュー Feature of the person 共に、走る、ヒト。 ブラインドサッカー日本代表監督 魚住 稿 生きがいインタビュー/写真家 高島史於 オ! シゴト・バリ体験 〜インタビュアーになる旅〜 障がい者同士だから語れる、本音のハナシ H4 KIZZNA 紲 きずな 見えなかった景色が見えてくる「気づきのマガジン」2015 Autumn Vol.5 TAKE FREE!! ご自由にお持ち下さい Interview with leader これからの お客さまサービスとは 東京スター銀行 取締役兼代表執行役頭取 入江 優 担当者インタビュー やさしさの現場から 教えて先生! その契約ホントに大丈夫? 〜事例で考える高齢者社会の契約問題〜 P2-3 KIZZNA 紲 きずな 見えなかった景色が見えてくる「気づきのマガジン」2015 Autumn Vol.5 vol.5 Kizzna 2015 Autumn CONTENTS 02 巻頭インタビュー「共に、走る、ヒト。」 仲間を信じろ ブラインドサッカー日本代表監督 魚住 稿さん 08 生きがいインタビュー 写真家 高島史於さん 10 オ! シゴト・バリ体験 〜インタビュアーになる旅〜 障がい者同士だから語れる、本音のハナシ 12 ケアフィットファーム勝沼 レポート/自宅レシピ 13 もうひとつのアートの世界 アーティスト 持田想一さん 14 ボランティア活動TOPICS 16 Care-Fit INTERVIEW オリエンタル・ガード・リサーチ 17 教えて先生! 〜事例で考える高齢化社会の契約問題〜 21 care-fit通信 25 担当者インタビュー 「やさしさの現場から」 31 巻頭インタビュー 「これからのお客さまサービスとは」 東京スター銀行 取締役兼代表執行役頭取 入江 優さん 発行人 畑中 稔 発行所 公益財団法人 日本ケアフィット共育機構 〒101-0061 東京都千代田区三崎町2-2-6 TEL:03-6261-2333 FAX:03-6261-2334 URL: http://www.carefit.org E-mail:toiawase@carefit.org 制作 タクトシステム株式会社 編集長 中川純一(株式会社フリート) 編集 城田晃久 安藤康之 (株式会社フリート) アートディレクション 笛木 暁(株式会社フリート) デザイン 風間 真 田辺淳志 (株式会社フリート) 印刷 日経印刷株式会社 本誌の一部あるいは全部を無断で複写、複製、転載することは禁じます。 コピーライト Kizzna 2015 Printed in Japan 仲間を信じろ 2016年にリオデジャネイロで開催されるパラリンピック出場に向けたアジア選手権を間近に控え、世界の舞台への飛躍が期待されるブラインドサッカー日本代表。チームを率いる魚住監督は、なんと現役の体育の先生でもあります。ブラインドサッカーにかける熱い想いと、監督の素顔に迫ってみました。 取材・文: 竹馬絵子 撮影: 大木大輔 Feature of the person 共に、走る、ヒト。 日本ブラインドサッカー協会 ブラインドサッカー 日本代表 監督 魚住稿 うおずみこう 1976 年生まれ。東京都出身。高校時代には短距離400m の陸上選手として活躍。2005 年、八王子盲学校の体育教員時代にブラインドサッカーに出会い、ゴールキーパーとしてプレーを始める。2007 年には日本代表候補として強化合宿に参加。その後代表チームの強化部スタッフ、ガイド(コーラー)経験を経て、2012 年監督に就任。東京都立調布南高等学校教諭。 【ブラインドサッカーとは】 キーパー以外の4 人のフィールドプレイヤーはアイマスクを着け、ガイド(コーラー)と呼ばれる指示役とキーパーの声、そして転がると音が出るボールの音を頼りに40m×20m のピッチでゴールを奪い合う。2002 年に日本ブラインドサッカー協会が発足して以来着実に競技人口が増え、現在は日本選手権や各地でリーグ戦などが盛んに行われている。 P4-5 Feature of the person 共に、走る、ヒト。 言葉というツールの大切さ 撮影: 宮川洋一郎 ーー10年ほど前に盲学校の先生となられ、そこでブラインドサッカーと出会ったそうですね。 はい。ここで初めて視覚障がい者教育に携わることになり、ブラインドサッカーという競技があることを知りました。とはいえ実は僕が教え始めたわけではなく、生徒の方から「先生、ブラインドサッカーっていうのをやってるんだけど手伝ってくれない?」と声をかけてきたんですよ。ゴールキーパーなら、目が見える人もできるルールだからと。もともとサッカー好きだったこともあり、すぐにどっぷりハマってしまって(笑)。そのときは自分が日本代表のキーパーを目指す気持ちで、代表合宿にも参加していました。やがて当時の日本代表監督風祭喜一さんの勧めを受け、指導側に転向することになります。プレーヤーとしてブラインドサッカーをよく知っていたうえ、体育の教員として視覚障がい者にスポーツを教えるテクニックを身に付けていた点を高く評価してくださったようです。 ーー初めて日本代表の試合動画を見たときには、想像をはるかに超えた激しいぶつかり合いに圧倒されました。 僕はブラインドサッカーというスポーツを知ったとき、いい意味でのカルチャーショックを二度受けたんです。それまでの自分にとってのスポーツとは、いい結果を残すことを目的とする「チャンピオンスポーツ」でした。しかし視覚障がい者スポーツに触れたとき、勝ち負けの他にも、本気で取り組み生きがいにできるスポーツの素晴らしさがあるのだと知りました。さらにそのうえで、ブラインドサッカーという「障がい者スポーツ」の中の「チャンピオンスポーツ」があると知って、これが第2の衝撃だったわけです。 晴眼者と視覚障がい者がまっこうから全力のガチンコ勝負をする。試合を見たことのない人には、その激しさ厳しさを、是非眼を閉じて想像していただきたい。障がい者スポーツの多くは一般スポーツのルールを一部変えたものが多く、リハビリ的要素が強いとされています。その中でブラインドサッカーは、最初から障がい者プレーヤーを中心に据えた競技です。晴眼者が絶対に有利ではなく、むしろ視覚障がいプレーヤーに全くかなわない場面もたくさんあります。健常者と障がい者が混ざり合って対等にプレーできる、ユニバーサルスポーツと呼ばれるのもそのためです。 ーー高校教師という多忙なお仕事のうえに日本代表監督を務めるというのは、とてもハードな生活なのではないですか。 確かになかなか休みも取れないので、苦労がないと言えば嘘になります。でも、教師を目指した自分の原点は「自分のためにではなく、人のために全力を尽くせる仕事をしたい」という想いでした。教師として教えること、ブラインドサッカー日本代表チームを強くしていくこと、どちらも僕にとって同じ原点から出てくる情熱です。だから頑張れるのだと思います。自分の中では監督業も教員業も同じ重さを持っていますので、両方とも一切おろそかにはできません。ですから、家族が完璧なサポートを続けてくれるのはとてもありがたいですね。 ブラインドサッカーを通して、高校の生徒たちもとても大きなものを感じとってくれています。僕から考えの押し付けはしませんが、自然とボランティアスタッフとして協力してくれる子が出てきたり。僕だからこそ、橋渡し役として色々なことを生徒たちにも伝えられていると思います。逆に選手指導という面で、教育に携わる者としての経験が役立っていることは言うまでもないですね。 ーー選手たちが見えない状態であれほど自在にボールを操れることには、驚くばかりです。 この競技の指導は、非常に時間がかかるものです。例えば先天的な視覚障がいプレーヤーはそもそも普通のサッカーを見たことすらなく、そのすり合わせから始めなくてはならないのですから。とにかくコミュニケーションを地道にたくさん積み重ねていかないと、いいチームづくりはできない。手段となる言葉というツールの使い方の難しさ、大切さを僕はいつも考えています。ブラインドサッカーには、見えないからこそ見せてもらえるものがあるのですね。相手の立場に立った分かりやすい声かけの方法を、指導していく中でむしろこちらが教えてもらっているのです。 選手たちは4人のフィールドプレーヤー、監督やコーラー、キーパーの指示の声、そしてボールの音を瞬時に聞き分けて、位置関係を把握します。試合で僕に「右に行け、左に行け」と言われて、選手たちは何も考えずに動くわけではありません。練習やミーティングで、無限といってもいいほどのプレーパターンをひとつひとつ確認しているからこそ、試合中の声かけひとつから、彼らは指示の意図を即座に理解して反応してくれる。これがブラインドサッカーならではの特徴で、究極のコミュニケーションスポーツと言われる理由でもありますね。 ーー選手の皆さんはピッチに立つとき、どんな思いを抱くのでしょうか。そして監督は、どのように選手の皆さんをとらえていますか。 接触場面が多く危険に思えるフィールド上ですが、選手たちは「自分たちはここで一番自由になれる」と言うんです。彼らは普段の生活で走り回るなんてことは皆無と言ってもいい。しかしフィールドに解き放たれれば、この状況は一変する。激しく選手同士がぶつかり合い、ドリブルもパスもシュートも思うがままです。大会ではさまざまな形で選手を手助けしてくれる人たちがいらっしゃいますが、女性サポーターからはときどき、「私が手を引いて連れてきた選手が、ピッチに立った瞬間ヒーローに変身すると思うと、そのギャップに母性本能をくすぐられちゃう」なんて声を聞くこともあります(笑)。またある代表選手が言うには、視覚障がいになったことをプラスにとらえているのだそうです。もちろん辛いことはたくさんあったし、ブラインドサッカーはもともとサッカーをやっていた人ですら、いきなり上手くなれるようなスポーツではありません。でも、視覚障がいがなければ自分が日の丸を背負うなんてことはなかったかもしれないと。何事もプラスにとらえる彼のたくましさには、僕も深く感じ入るものがありました。 監督とはいっても、僕にとって選手たちはあくまで対等であり、リスペクトする存在です。プレー面でも、彼らの生き方そのものでも、自分だったらこんなことできないという畏敬の念は常にあります。マイノリティの大変さについても、彼らを通じて感じることは大きい。少しでも生きやすくなるよう手伝いつつも、同じブラインドサッカーを愛する仲間として接するのが僕にとって一番心地いいですし、そうさせてもらっていると思っています。 ーー監督がブラインドサッカーに出会って10年。日本のレベルはどのような変化を遂げたのでしょうか。 着実にステップアップしたと自負しています。ブラインドサッカーは世界的に今も進化し続けているスポーツですが、世界の強豪と比べても今の日本は同じくらいか、さらに急角度で成長している。日本代表は、南米などによく見られるひとりのスーパープレーヤーが大活躍するというスタイルではありません。僕は素直で献身的でひたむきな、日本選手ならではの長所を生かしたチームづくりを目指しました。視覚障がいの選手たちにはこうした面で特に強いメンバーが揃っていますから。日本代表の真価は、チーム全員による組織的ディフェンスでどんな攻撃もはね返す、鉄壁の守りにあります。これこそが、2014年の世界選手権でPK を除けば無失点という好結果を生み出したのです。 2020年の東京パラリンピック開催決定で注目が高まる中で、ブラインドサッカーにも今まで以上に多面的な、先を見越したサポートが入り始めたと感じています。パラリンピックそのものについても「かわいそうな人たちのもの」ではなく純粋な競技大会であると、皆さんの意識が変わってきたのではないかと。 ーーリオ・パラリンピック出場への第一歩となる、アジア選手権開催までもあと少しです。ここ一番で監督が選手たちにかける言葉はありますか。 決め台詞なんてものはないですが、「仲間を信じろ」と言うことが多いです。ここまで積み重ねてきた全力を出しきるようにと。スタジアムでサポーターの大声援を受けると、日本代表として戦っているのだという実感が迫ります。ブラインドサッカーに関わる全ての人の想いを背負って、我々はここまで来ました。選手たちもまた、さまざまな人生のバックボーンを背負いながら努力を続けてきたのです。何が何でもリオへの切符を勝ち取りたいと思っています。 ーー頑張ってください。魚住ジャパンを応援しています!! P6-7 Feature of the person 共に、走る、ヒト。 究極のコミュニケーションスポーツ 撮影:宮川洋一郎 IBSA ブラインドサッカー アジア選手権 2015 今年9月2日から7日の決勝まで、国立代々木競技場フットサルコートで「IBSAブラインドサッカーアジア選手権2015」が開催される。今回は、中国・韓国・イラン・インド・マレーシア・日本の6ヶ国がリオデジャネイロ・パラリンピックに出場できる2枠を争う熾烈な予選でもある。 詳細、チケット情報などは→ http://www.asia2015-blindfootball.com 上は2014年世界選手権の初戦でパラグアイ守備陣を切り裂く日本のエース黒田。この代表歴12年のベテラン選手は、八王子盲学校で教えていた頃の魚住監督の元同僚でもある。「リオ・パラリンピックに向け、一緒に挑戦してくれる頼もしい仲間のひとりです」 P8-9 Worth living interview 生きがい インタビュー No.01 写真家 高島史於さん まだ見ぬ世界に焦がれて、どこまでも旅を続ける。 そこには心動かす出会いが待っているから。 シャッターを切った瞬間の感動が 多くの人に伝わるような写真を撮り続けたい。 取材・文:熊本美香 撮影:三輪友紀 アート系から海外フォトエッセイまで、写真家として幅広く活動中!  軍隊カメラマンだった父親の影響で写真家を志した高島さん。「子供の頃からモノづくりが好きで、自由に飛び回れる仕事だと思ったんです。それまでは写真なんて撮ったこともなかったんです」と笑う。日本大学芸術学部写真学科へ進学し、そこでの演劇や映像など芸術家を目指す多くの仲間との出会いで才能が覚醒することになる。  『街こそが芸術を発信する媒体』との考えが主流だった70 年代。舞台に関わっていた友人のひとりから「劇場のロビーに展示するために、街中のスナップ写真を撮ってほしい」と依頼を受けた際に、目の当たりにした舞踊。強く心惹かれ夢中でシャッターを切り始めるようになった。「当時、撮影した舞踏家の笠井叡(かさいあきら)さんの写真は、今見ても良く撮れています。その作品がきっかけで、次々と声がかかり舞踊を撮影するようになっていきました」。その頃にダンサーとして活躍していた当法人の代表理事畑中とも巡り会った。「畑中さんは類まれな存在感があった。フォトセッションをお願いして、親しくなりました」。そんな二人の交流は今日まで続いている。  大学の仲間と古い工場の2階をアトリエに改装し「行動する館=ドゥーハウス」で制作活動を経て、カメラマンとしてCMやファッションなど仕事の幅を広げた。海外での大掛かりなカレンダー撮影やフォトエッセイの依頼も舞い込み、各国の政府観光局ともつながりを深めていった。政府観光局からダイレクトにきた依頼では、自身の企画を雑誌に持ち込み、巻頭特集として24Pにわたり取り上げられた。「海外に行くのは毎回ワクワク。作品を発表するのがやりがい」と、現在も精力的に駆け回っている。 世界中のどこにでも面白い発見があります。 多数の国を訪れた高島さんがお気に入りの街はベトナムにポルトガル。「役得でプライベートは絶対行かないようなリッチな取材旅行もありますが、なんだかお尻がもぞもぞしてきちゃう(苦笑)。出身が東京下町なので、ぐしゃぐしゃした雰囲気が好き。そこに溢れる人間のエネルギーがたまらない」と話す。テーマを決めず海外に旅立つことも頻繁になった。「いわゆる名所旧跡がないところにも、必ず面白いものや感動が見つかります」と好奇心旺盛に瞳を輝かせる。  高島さんが指摘するのは「日本の高齢者や障がい者への対応は遅れている」。ヨーロッパでは乳母車を押す夫人が階段の下にいればぱっと数人が手を貸すが、東京ではまず見かけない。バリアフリーの導入もまだまだと感じるという。忘れられないのは、ベトナム・クアダイビーチで、日の出の撮影後に散歩していたときのこと。まるい竹で編んだ漁船を引いて年老いた漁師が帰って来ると小学生3、4人が集まり漁船を押して浜辺にあげる姿には思わず涙が出たそう。 「生活のなかで身についているホスピタリティが素晴らしい。日本にもそんな文化が根づくように、サービス介助士の資格は必要だと思います」。  高島さんの健康の秘訣は体にいいお酒! 自宅のベランダで育てたハーブや野菜を焼酎につけたり、ジャムにしたり。「貧乏人気質なので、いかに安いもので上手に工夫して料理するのかは得意」と、海外取材で見つけてきたアイデアで友人に料理を振る舞うことも。今後の目標は海外フォトエッセイはもちろんアート作品を発表していくこと。「でも、英語力はまだまだなんです」と気取りのない高島さん。だからこそ、世界中で素敵な笑顔を撮れるに違いない。 Spot of a memory思い出のスポット ▼クアダイビーチ ホイアン郊外、南シナ海のクアダイビーチでのベトナムの子供たちの自然に手助けする姿は今も忘れられない。 ▼開高健ルーム ホーチミンのリバーサイドにある「マジェスティックホテル」では作家・開高健が愛用していた103 号室に宿泊しました。 ▼ハノイ駅  プライベートでも、還暦を祝って奥様とホーチミンから中国国境まで、2ヶ月間バックパッカーの旅を楽しんだ。 Pro¬file 写真家 高島史於(たかしま ふみお) 1948年 東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科3年次にアーティスト集団(株)ドゥーハウスを設立し大学を中退。渋谷にて小劇場を運営し、演劇、ダンス公演、写真展、美術展などを企画プロデュース。アート活動の他にコマーシャル・フォト制作などを行う。1994年以降、海外取材に積極的に取り組む。これまで137回の海外取材を通し、フォトエッセイなどを雑誌に発表。2009年 韓国・仁川広域市「訪問の年2009」の広報大使に任命され、1年を通して観光プロモーションをサポート。韓国文化院(東京)、射水市(富山)にて個展開催。写真個展、グループ展、多数。日本舞台写真家協会会員、日本ベトナム友好協会会員。 P10-11 オ! シゴト・バリ体験 〜インタビュアーになる旅〜 第4回 障がい者同士だから語れる、 本音の ハナシ 「チャレンジ陸上2014」で華麗にデビューした笹原拓歩さんはまだ14歳。 東京パラリンピックのときに20歳を迎える未来のスターに、もと器械体操選手で国体出場の経験もある岩岡美咲さんがインタビュー。 「ライバルやった子がいるんですけど、その子に負けたのが相当悔しかった。」(笹原) 岩岡さん 車いす陸上を始めるきっかけは? 笹原さん 小学6年の修学旅行で笹原(廣喜)さんに会ったことと山本(浩之)さんの活躍をテレビで見てからです。それでやろうと思いました。 岩岡さん 100mのタイムは何秒くらいですか。 笹原さん ジャパラ(IPC 公認2014ジャパンパラ陸上競技大会)が18 秒。本当は17 秒が目標だったんですけど。それで大分(第34回大分国際車いすマラソン大会)で頑張ったんだけど、その悔しさがいまもあって。 岩岡さん 思うような結果が出せなかった? 笹原さん ジュニアの中で1位が取れなかったし、目標タイムも取れなくて。それで、結構泣いていました。 岩岡さん 大分国際の順位は? 笹原さん 総合で46位。ライバルやった子がいるんですけど、その子に負けたのが相当悔しかった。 岩岡さん (笹原さんは)最年少出場だったんですよね。ライバルはどんな子? 笹原さん 佐賀の子(高校生)で会ったことはないんですけど速い速いって言われとった子に負けたので。 岩岡さん レースのときって、足を車いすの中に入れるんですよね。 笹原さん はい。中って言うか、僕の場合は正座なんです。普通に座ったり、足置きの上に足を載せたりとか、障がいのクラスによって違うんです。 岩岡さん 正座だと足が痺れたりしない? 笹原さん 足の感覚がないので分からんですけど。腹筋を使うときは足も使うので足がつったりはします。 岩岡さん これ以上、走ったら足がヤバイとかは? 笹原さん 僕の場合、腕の筋力がないんで風があるときは結構きついです。でも、いま筋肉をつけると成長していくときに硬直して伸びなくなるらしいんで、いまは柔軟性を残すように言われています。 「一度つったらずっとつったままで治らないんで、痛いまま走るだけです。(笑)」(笹原) 岩岡さん 私は小学5年から器械体操をしていて高校2年のときに頭から落ちて頸椎を損傷したんだけど、中学3年で国体に出たときは出るだけで満足してしまって。長距離で走っているときに考えていることって? 笹原さん とりあえず離されんようにとか。以前カーブでこけたことがあるんで、なるべく安全に。ただ、曲がり方は全部頭の中で考えていて、あのカーブで抜かそうというのは頭にあります。 岩岡さん こけたら1人で起き上がれる? 笹原さん 多分できないと思います。バランス感覚はあるけど、誰かに起こしてもらわんと無理ですね。押したりとかはダメですが、選手に有利になることをしなければボランティアに起こしてもらうのは大丈夫。 岩岡さん そうなんですね。こけないように気を付けないとね。それとレース中に足がつらないように。(笑) 笹原さん 一度つったらずっとつったままで治らないんで、痛いまま走るだけです。(笑) 岩岡さん サッカー選手は足がつったら伸ばしたりするけど、それも難しい? 笹原さん 競技用車いすは、足が伸ばせないんですよ。ずっと座っている状態だから起き上がって押すとかしかできないから、あんまり改善できない。 岩岡さん 寒いときの方がつりやすいとか。 笹原さん う〜ん、やっぱ暖かい方がいいなと思う。 岩岡さん 私も自分で体は動かせないけど、寒いときは意志とは関係なく足がガタガタって痙攣したりするし。それと水分補給にも気を付けないと。 笹原さん やっぱ水分は大事ですよね。水分を取らないとすぐ熱出すんで、できるだけ多く取るようにしています。 「そう、力を精一杯出してそのときは、もう全力で速くいくだけです。」(笹原) 笹原さん 体操していたときに大変なことって? 岩岡さん 体重管理と練習が辛かった。冬は筋力トレーニング的なことも、基礎からあって。車いす陸上にも基礎練習とかあるの? 笹原さん 柔軟性重視で基礎についてはあんまり言われないです。練習あるのみ。(障がいの部位によって)フォームはみんな違うんで。僕は腕の筋肉を使わずに速く走ることだけを言われています。 岩岡さん 柔軟性って何でそんなに硬いんっていう人もいるけど、それだけ柔らかかったら成長して筋肉がついたら、もっと速くなるんやろうね。長距離と短距離はどっちが好き? 笹原さん 短い距離はあんまり。長距離も今は体力がないから。う〜ん、中距離が一番いいですね。 岩岡さん 中距離? 笹原さん 1500とか800とかそこらへんがいいですね。長くもないし、まだ駆け引きができるんですよね。 岩岡さん 距離が長いほど駆け引きが面白い? 笹原さん はい。1500だとトラックのレーンは自由なんです。休むときに休んで、やるときにやらんと負けるから面白い。 岩岡さん じゃあ、短距離のときは駆け引きっていうよりも自分の力をどれだけ出せるか。 笹原さん そう、力を精一杯出してそのときは、もう全力で速くいくだけです。 岩岡さん 東京パラリンピックのときはいくつに? 笹原さん 20歳です。 岩岡さん これからどんどん結果が出たら色んなところからスポンサーがくるね。錦織君みたいに。 笹原さん くるといいですけど。(笑) 岩岡さん いまのうちにサインをもらっておかないとね。ありがとうございました。応援しています。 インタビュアー 岩岡美咲いわおかみさきさん 高校2 年のときに頸椎損傷となった、もと器械体操の国体代表選手。アスリートの視点も交えながら本音を引き出していきます。 笹原拓歩ささはらたくみさん 2000年6月7日生まれ。二分脊椎症の陸上選手。「2014ジャパンパラ陸上競技大会」100m、200mともに1位。最年少で「第34回大分国際車いすマラソン大会」に出場するなど、これからが楽しみなアスリート。 「オ! シゴト・バリ体験」とは 九州国際大学国際関係学部観光ビジネスコース福島ゼミナールが開発した、障がい者のための仕事体験企画です。NHK 教育テレビの障がい者バラエティ番組「バリバラ」と共同制作するなど注目を集めています。サービス介助士の資格を持つ学生がコーディネーターを務める「インタビュアーになる旅」の連載は今回が最終回です。ありがとうございました。担当は2年柳生遥香でした。 写真右「オ! シゴト・バリ体験」実施中。岩岡さん・笹原さん・担当の柳生遥香 車いす競技は100m、200m、400mの短距離、800m、1500mの中距離、5000mと10000mの長距離、4×100mと4×400mのリレー競走などのトラック種目とマラソンなどのロード種目がある。脊髄損傷により車いすを使用しているか手足を失った者は、クラスT51〜T54(トラック競技)またはF51〜F58(フィールド競技)となり、数字が小さいほど障がいの度合いは大きい。 P12 ケアフィットファーム勝沼レポート 「ケアフィットファーム勝沼」で、 今年もじゃがいもの収穫が行われました! 7月18日に、日本ケアフィット共育機構のスタッフ、ボランティアの皆さんとそのご家族たちでじゃがいもを収穫しました。小雨がぱらつくなかではありましたが、例年以上の大収穫!きたあかり、男爵、メイクイーンの3 種類、合わせてなんと300キログラム以上を掘り起こすことができました。都会では味わえない収穫の喜びはなにごとにも代えがたい体験です。農作業への参加は無料ですので、次の機会にはぜひご参加ください! ケアフィットファームのこれから 日本ケアフィット共育機構は地元の方々の強力を得て、農業生産法人合同会社ケアフィットファームを設立しました。 1.あらゆる人たちが共に働き、共に学べる場を創造する。 2.介助士等の活動の支援と活躍の場の提供を実践する。 3.日本の農業の再生と食の安全の確保。 障がい福祉サービス提供事業者として、障がい者遠隔地雇用という新たなビジネスモデルを展開していく予定です。 お問い合わせ/ お申し込み 公益財団法人 日本ケアフィット共育機構 東京都千代田区三崎町2-2-6 TEL:03-6261-2333 FAX:03-6261-2334 E-mail:farm@carefit.org WEB http://www.carefit.org/farm/ P12 ケアフィットファーム勝沼自宅レシピ 採れたてじゃがいもと秋の味覚の絶妙なハーモニー! 「秋鮭のパリっとポテト焼き きのこクリームソース添え」 撮影:淵江亮一 作り方 (1)じゃがいもはよく洗い、皮付きのままスライサーで薄切りにし、さっと水に取り、ざるに上げ、水気を拭き取る (2)鮭の皮は取り除き、塩こしょうをふる。皮面に小麦粉をまぶす。1のじゃがいもをうろこ状になるように鮭の皮面に載せていく (3)フライパンにサラダ油を入れ温め、じゃがいもの方を下にして中火で焼く。焼き色がついたら裏返し、両面焼けたら別皿に取り出す (4)同じフライパンにバターを入れ温め、中火で玉ねぎ、にんにく、しめじ、まいたけを炒め、色づいたら白ワインを入れ、強火で煮詰める。水分が半量になったら生クリームを加え、ひと混ぜし、弱火で温める。塩こしょう(分量外)で味を調え、最後にパセリを加える。ソースを皿に載せ、3を盛ったらできあがり 材料2 人分 生鮭 2 切れ じゃがいも 中1 個 塩 小さじ1/2 こしょう 少々 小麦粉 大さじ1 サラダ油 大さじ1 玉ねぎ 中1/2 個 しめじ 50g まいたけ 50g バター 25g にんにく みじん切り 小さじ1/2 白ワイン 80cc 生クリーム 50cc パセリ みじん切り 適宜 レシピ&料理制作 吉田 三和子さん 薬剤師、介護福祉士、料理研究家。 1972年東京生まれ。家庭料理、パーティー料理の教室「M.Y.Dining」を主宰。レシピ開発、コラム等の執筆、地域の介護食研修の講師なども行っている。著書:デイサービスで人気の介護食83(講談社刊) P13 もうひとつのアートの世界 障がいのあるアーティストたちの独自の感性が生み出すアート作品は、多くの人の目を奪い、感動を呼び覚まします。このページでは、そんな彼らの作品を通して、その世界観の一端をご紹介します。 「渓谷」 持田想一もちだそういち/ クレヨン、紙 2004 年の秋の企画展覧会「アトリエ・アウトス その内なる世界」に出展したときの収蔵作品。1968 年生まれで、[社福]嬉泉の運営する袖ヶ浦ひかりの学園内にあるアトリエ・アウトスに所属する持田は、写真集などを見て記憶し鉛筆で一気に下絵を描き、その上を順次クレヨンで塗り重ねていく。 太い輪郭と細部までさまざまに彩られた色層には、独特な色のとらえ方やイメージをもつ豊かな内的世界が広がっている。 もうひとつの美術館 「もうひとつのアート」に触れたい方は 〜美術館紹介〜 「もうひとつの美術館」は、栃木県那珂川町の里山に建つ明治大正の面影を残した旧小口小学校校舎を再利用して2001年に開設された美術館です。 【みんながアーティスト、すべてはアート】をコンセプトに、年齢・国籍・障がいの有無・専門家であるなしを超えて、まち・地域・場所やジャンルをつなぎつくっていくアートのあり方を提案しています。 春・夏・秋の年3回の企画展を中心に、さまざまなイベント・ワークショップを開催しています。 P14 ボランティア活動TOPICS 衣類募集 できることを、できる範囲で。 インドの子どもたちに笑顔を届けたい 物資寄付のお願い 日本ケアフィット共育機構では、毎年インドの子どもたちや高齢な方々に衣類や衛生用品などを届けています。今年もご協力よろしくお願いいたします。 インドでは近年、IT 分野を始めとする経済成長が注目されていますが、地域や民族間の貧富の差は未だに存在しています。また、障がいのある方への理解が十分ではなく、教育や福祉を満足に受けられないまま厳しい生活を強いられている方も大勢いらっしゃいます。 日本ケアフィット共育機構では、協力団体であるケアフィットインドを通じてインドの障がいのある子どもたちや高齢の方のための施設に支援物資を届けています。サイズが合わなくなった衣類や、石けん、生理用品などの衛生用品、おもちゃなどがありましたら、ぜひご送付ください。皆さまからの温かいご協力を心よりお待ちしております。 寄付の流れ 1 支援物資を募集(9月30日締め切り) 2 支援物資の仕分け&発送作業 3 船便にて現地にお届け 4 写真にて皆さまにご報告 募集しているもの 衣類 セーター ジャージ など 衛生用品 石けん 生理用品 など 文具 鉛筆(新品) ノート 消しゴムなど かんたんなおもちゃ ボードゲーム 受け付けていないもの ・損傷が多いもの・医薬品・食物・シャープペンシル・割れ物・液体物 ※判断が難しい内容はお問い合わせください。 送料はご負担ください。内容(品物・個数)をご記載ください。 発送先 公益財団法人 日本ケアフィット共育機構 〒101-0061 東京都千代田区三崎町2-2-6 TEL:03-6261-2333 FAX:03-6261-2334 E-mail:toiawase@care¬t.org P15 そっと、さっと、あんしんを。 すべての人がスポーツの感動を共有できる環境のために リレーションセンターTASKAL、東京ヴェルディと連携 日本ケアフィット共育機構では、Jリーグクラブ「東京ヴェルディ」と連携し、味の素スタジアムで行われるすべてのホームゲームに「リレーションセンターTASKAL」を設置することになりました。 7月26日(日)に開催された対京都サンガF.C.戦では、サービス介助士の資格を持つボランティアスタッフが、障がいのある方が楽しく観戦できるよう、車いす利用者の誘導・案内やブースでの問い合わせ対応などを行いました。蜂矢維史はちやまさふみさんは、自分がサッカー好きということもあって、お客さまと一緒に試合を楽しめる「TASKAL」の活動に積極的に参加しているとのこと。主なお手伝い内容は、来場されたお客さまを車いすスペースへご案内することと、観戦中のお客さまのサポート。お客さまによってご要望は異なるので、積極的にコミュニケーションを取って、どんなことをすればその方に喜んでもらえるのか、きちんと把握することを心がけているそうです。「この活動が広まって、車いす利用の方がもっと気軽にスタジアムに足を運んでいただけるようになると嬉しいです」と語る蜂矢さん。お客さまの傍らに寄り添って楽しげにお話する姿が印象的でした。 取材・文:城田晃久 撮影:平瀬夏彦 リレーションセンターTASKALとは スポーツ大会やコンサート、展示会、演劇、お祭りなど不特定多数の方々が集まるイベントなどで、障がい者や高齢者、外国人など、すべての方々が楽しく過ごせる環境づくりに寄与する施設。TASKALにはサービス介助士がリーダーとして配置されており、さまざまな「困った」に対応します。 介助が必要な方のお役に立つこと さまざまな障がいのある方、高齢者、外国人など、お手伝いが必要なすべての方に役立つことが目的です。 楽しみながらボランティア 活気があり老若男女が集うスポーツ会場は、ボランティアの方も楽しむことができます。 サービス介助士 蜂矢維史はちやまさふみさん 小売業のマルイを中心とした「丸井グループ」のCSR担当として、より深くお客さま対応を学ぶためにサービス介助士資格を取得。休日にはボランティア活動に積極的に参加されている。 コピーライト TOKYO VERDY P16 時代の先を行くサービスを追求 Care-Fit INTERVIEW 独自性の高いサービスを提供するオリエンタル・ガード・リサーチ。 サービスの拡大・向上のため、2009年より認定NPO法人ことばの道案内と協力し、人材教育にも注力している。 認定NPO法人ことばの道案内古矢利夫理事長とともに、今後の警備のあり方について話を伺った。 株式会社オリエンタル・ガード・リサーチ 代表取締役会長 安藤弘二さん (株)オリエンタル・ガード・リサーチは創業30周年を迎えるセキュリティのプロフェッショナル集団。ビルや駅構内・大学・ホテル等の施設警備や内部保安、工事現場、道路での交通誘導やイベント警備、現金や貴重品などの輸送業務、人材派遣業務など幅広いサービスを展開。また、サービス介助士をはじめとする専門的な技術や知識とともに高いホスピタリティを身につけた警備員を育成し、鉄道会社をはじめ多数の顧客から高い評価を受けている。 認定NPO法人ことばの道案内 理事長 古矢利夫さん 「障がい者や高齢者にとって安全で快適なサービスは、誰にとっても同じように安全で快適である」との思いで、サービスの拡大に励むオリエンタル・ガード・リサーチ。「何かお困りごとはございますか?」と、ひと声かける思いやりを持った警備員の育成に尽力している。 「これからは安心・安全を守る警備員にも高いホスピタリティを持った質の高いサービスが求められる」と語る、安藤弘二代表取締役会長。オリエンタル・ガード・リサーチが、認定NPO法人ことばの道案内古矢利夫理事長に協力を依頼したのも、より質の高いサービスを考案するためだった。2020年に世界各国から多くの観光客が訪れるスポーツの一大イベントが控える中、さらにその一歩先を行くサービスを模索している。 自身も視覚障がいがあり、駅のホームから3度も転落した経験を持つ古矢利夫さん。その経験からも、現状の障がい者や高齢者への対応は不十分に映るようだ。「鉄道のホームドアも次々と設置されていますが、まだ課題は多い。どんな方でもより駅を利用しやすくするため、我々も挑戦を続けています」と語る。その挑戦のひとつが、『ことばの道案内』。通称『ことナビ』と呼ばれる道案内サービスだ。作成した道案内情報をWEB(ウォーキングナビ)で無料公開し、音声機能付き携帯電話などで聞くことができるようにした。また、道路に埋め込んだユビキタスコード内蔵のICタグで歩行者を誘導するシステムも開発し、視覚障がい者や視力が衰えた高齢者などの外出、社会参加をサポートするべく、より安全な誘導システムの普及を図っている。 「我々も利便性の高いツール開発を続けていますが、やはりオリエンタル・ガード・リサーチさんのような『人』のサポートは欠かせません。障がい者が一人で外出できる文化を育み、日本のおもてなしが世界中の人に誇れるようになってほしいですね」 オリエンタル・ガード・リサーチの 各種業務内容 施設警備・交通誘導警備・集金代行 イベント警備・業務請負・人材派遣業務 株式会社オリエンタル・ガード・リサーチ お問い合わせはお気軽に! 03-3839-1877 詳しくはホームページをご覧ください。 http://www.ogr-jp.com WEB http://www.ogr-jp.com 右側のQRコードからウェブサイトがご覧いただけます。 P17 教えて先生! その契約 ホントに大丈夫? 〜事例で考える 高齢化社会の契約問題〜 CASE 1 認知症と診断された方が成年後見制度を利用する前に結んだ契約は有効? Q 私の祖母は医師から認知症という診断を受けたのですが、その後、保険会社と生命保険を契約していたことがわかりました。この契約を無効にすることができますか? A 認知症が進んで判断能力のない方のした契約は無効にすることが可能ですが、実際には困難な場合が多いのです。 成年後見制度の必要性はこの点にあるのです。 先生より 契約などの法律行為には意思能力が必要です。意思能力のない人のした契約は無効です。意思能力とは、契約の内容や効果を理解し、判断する能力とされています。ですが、意思能力があるかどうかは見た目からは判断できない場合がありますし、裁判などでその有無を立証するのは難しいことが多いのです。 このケースでも、お祖母さまが契約した当時の意思能力の有無については、医師の証言などの客観的な証拠がなければ、残念ながら契約を無効にするのは難しいと言わざるをえないでしょう。 成年後見制度が社会的に必要とされるのは、この点にあるのです。 成年後見制度とは、判断能力の不十分な方々の保護と取引の安定を目的として設けられた制度で、この制度を利用されている方が単独で契約などを結んだ場合には後から取り消すことが可能とされています(取消権)。 今回のケースでは、お祖母さまが契約当時に成年後見制度を利用していれば、契約を取消すことができたのです。 超高齢社会の進行に伴い、契約能力が問題になるケースは増えていくことが予想されます。意思能力の有無を争うような契約は極力避けられるようになるのではないでしょうか。 成年後見制度の役割はますます高まります。遠くない将来に、誰でも、どんな契約でも、成年後見制度の利用の有無を尋ねられるようになるかもしれませんね。 今回の先生 司法書士 秋澤 直樹さん 経験豊富な司法書士と土地家屋調査士による合同事務所「ひなあい合同事務所」所属。同事務所では、依頼者の伴走者となるべく、登記手続を中心とした不動産取引、相続、会社法務支援、成年後見などの多様な業務を行っています。 ひなあい合同事務所 TEL:03-5213-4810(代表) HP:http://hinaai.com/ P18 care-fit 通信 認知症介助士トピックス 認知症は、こわくない。 第一回 今からできる予防のためのライフハック 認知症と聞いて、どんなことを思い浮かべますか。「物忘れの病気」という漠然としたイメージはあるものの、遠いところで起きる特殊な、深刻な病気だと思っている人も多いのでは。本当にそうなのでしょうか。認知症を心理学の方面から研究する宇良千秋先生に、サービス介助士導入企業向け講演会「ユニバーサル・コミュニケーション・カンファレンス」でお話を伺いました。 「認知症はまったく特別な病気ではありません。誰にとってもごく身近なものです」と断言する宇良先生。認知症は、脳がダメージを受けたり働きが悪くなることで、ものごとを記憶したり言葉を話したりする力が、生活がしづらくなるほど低くなった状態のこと。原因はさまざまですが、多くの場合、年齢が上がるほど認知症になる割合が増えます。現在都内で38万人超といわれる認知症の人は、これから10年ほどで60万人になるとも予想されるのだとか。いまや認知症は誰もがいずれなる可能性のある、ごくありふれた病気のひとつなのです。 でも、お年寄りの病気なら当分関係ないのでは? そう思いたいところですが、認知症は高齢者になる前の生活習慣とも深い関わりがあります。成人期・中年期の不健康な食生活や過度の飲酒、そこから起こる肥満、高血圧などは老年期以降の認知症の発生リスクを高め、逆に、抗酸化作用の高い野菜・果物やDHAが豊富な魚を中心としたバランス良い食生活は、認知症の発症リスクを低めてくれるのだそうです。 さらに効果的なのは、体を動かす習慣。動物実験では、運動によってアルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドβを分解する酵素が多く生み出されることがわかっています。また、中程度の運動を1日20?30分行った人は、そうでない人に比べて20年後の認知症の発症リスクがなんと3分の1に減ったのだとか。宇良先生のオススメは、気軽にできるウォーキング。いつもの駅のひとつ手前で降りて歩いたり、1日1回は階段を使うようにするなど、できそうなことから少しずつ始めるのがコツだそうです。 いまからできる認知症予防の第一歩は、健康的な食生活と運動。つまりダイエットと基本同じ。そう考えれば、あまり難しくはなさそうです。 *次回は、「まだまだある! 認知症を防ぐライフハック」をご紹介します。 取材・文: 竹馬絵子 撮影: 三輪友紀 Pro¬file 宇良 千秋先生 東京都健康長寿医療センター研究所「自立促進と介護予防研究チーム」研究員(心理学博士) 認知症介助士 資格のご案内 超高齢社会を迎えた日本。認知症はすべての人にとって他人ごとではありません。ご家族、ご自身、お客さま、誰しもが認知症と診断される可能性はあるのです。認知症介助士は、認知症についての正しい知識と適切なケアを身につけたい方に最適の資格です。認知症のご家族がいる方、認知症のお客さまと接する可能性のあるサービス業に従事されている方は、取得を目指されてはいかがでしょう。 認知症介助士 正しい知識 おもてなしの心 寄り添う 詳細・お問い合わせはこちら! http://www.carefit.org/ P19 サービス介助士トピックス 祝・合格! SKE48梅本まどかさん サービス介助士資格GET!! SKE48梅本まどかさんが、ついにサービス介助士資格をゲットしました!これからはコンサート会場にいらっしゃる車いすを利用されるファンの方のお手伝いをしてくれるかも?! まどかさんの今後の活躍に注目です! プロフィール 梅本 まどかさん 1992年生まれ。愛知県出身。アイドルグループSKE48のチームE副リーダー。趣味はスポーツ、ダンス。特技はチアリーディング。 喜びの声 「介助の仕方、ちょっとした動きや言い方で感じる影響力がホントに大きいので介助士の資格を通して大切なことが学べて良かったです!」 クルーズトレイン“ななつ星in九州”介助研修に参加してきました。 豪華な特別車両でゆったりと九州を周遊するクルーズトレイン“ななつ星in 九州”。クルーとのふれあいも“ななつ星”の魅力のひとつ。クルーの皆さんは心温まるおもてなしの心を持ってお客さまをお迎えしています。 今回、日本ケアフィット共育機構のサービス介助士インストラクターが、高齢者や車いすで乗車されるお客さまへの対応などを中心とした“ななつ星”の介助研修のお手伝いに伺ってきました。 すべてのお客さまに世界一のおもてなしを提供するために努力されているクルーの皆さんの姿に、インストラクターたちも身の引き締まる思いを持ったようです。 文: 城田晃久 サービス介助士 資格のご案内 サービス介助士とは、高齢の人や障がいがある人を手伝うときの「おもてなしの心」と「介助技術」を学び、相手に安心していただきながら手伝いができる人のことで、駅や空港、銀行、ホテルなどで活躍しています。お仕事をお持ちの方でも平均2ヶ月で取得できるサービス介助士資格。個人、法人問わず参加できる無料の講座説明会も行っていますので、ぜひ一度お問い合わせください。 おもてなしの心 正しい介助技術 サービス介助士 詳細・お問い合わせはこちら! http://www.carefit.org/ P20 care-fit 通信 防災介助士トピックス 9月1日は防災の日! 防災の日って?…1923年9月1日に発生した関東大震災にちなんで、災害への備えを怠らないよう心がける日として制定された日本の記念日です。 避難行動要支援者を知っていますか? 2011年の東日本大震災において、被災地全体の死者数のうち65歳以上の高齢者が約6割、障がい者の死亡率は被災住民全体の死亡率の約2倍でした。大災害において、高齢者や障がい者は移動に時間がかかるなどの理由で、被害にあう確率が高いのです。また、消防関係者などの支援者にも多くの犠牲が出ました。 このときの教訓から2013年に災害対策基本法が改正され、市町村を対象に、新たに「避難行動要支援者名簿」の作成、名簿情報の関係者への提供といった規定が設けられました。「どこ」に「どんな」支援を必要とする人が住んでいるのかを把握しておき、もしものときに備えるためです。 安否確認が必要な際には、避難行動要支援者名簿を活用して、さらに防災無線や広報車、携帯電話の緊急速報メールなどの複数の手段を組み合わせながら、障害の区分に配慮して情報伝達を試みることになります。 避難行動要支援者とは 高齢者、障がい者、乳幼児その他の特に配慮が必要な人を「要配慮者」と呼び、そのうち、災害が発生したとき、または発生するおそれがある場合に自分で避難することが難しく、特に支援を要する人が「避難行動要支援者」と呼ばれます。 避難行動要支援者名簿とは 地域防災計画などの策定を進める際に、市町村の関係部局などで把握している要介護高齢者や障がい者などの情報を集約して名簿を作成し、要配慮者を把握します。そして必要となる情報を適宜更新し、関係者間で共有します。 私たちができること 行政が被災することもあります。私たちは、名簿への記載の有無に関わらず、それぞれの地域において災害時に支援が必要と思われる方々に目を向け、いざというときにすばやく支援できるように、挨拶や声かけなど、日ごろから良好な関係を築いておくことが大切です。地域のキズナを深めることが、地域の防災力を高めることに繋がるのです。 名簿への登録を希望される方は、 お住まいの自治体に問い合わせてみてください! P21 防災介助士トピックス 受講者の声 第一回 角田 正三さん 株式会社東京ドーム 営業環境管理部 保安管理グループ セーフティホーム所長 「いつ誰がどんな状況になっても、 お客さまを守るために」 東京ドームにお勤めの角田さん。応急手当普及員の資格を所有されており、従業員向けの防災教育などを担当されているそうです。防災に対する普段からの取り組みと、今回受講された防災介助士講習についてお聞きしました。 Q 角田さんの業務について教えてください。 A 東京ドームシティ内には、ホテル、商業・温浴施設、遊園地などのさまざまな施設があり、必要な防災訓練もそれぞれ異なるため、8つの自衛消防隊で訓練を実施しています。8つの組織の取りまとめを行うのが私の部署の役割で、いざというときには、負傷者数の把握や、帰宅困難者受入可能人数の確認などを行うことになります。 私自身も、実際にAEDや心肺蘇生を行った経験もありますが、災害時には複数名同時に救助が必要になることも考えられます。ポケットには常にマウスピースを入れ、いつ何が起こっても対応できるように準備をしていますね。 Q 防災に関してはどのような取り組みを行っているのですか? A 東京ドームシティにはたくさんのお客さまがいらっしゃるため、いつ誰がどんな状況になっても、お客さまを守るために、従業員教育・施設管理を徹底しています。まず、AEDや心肺蘇生を学ぶ「普通救命講習」を、アルバイト含め800名以上が受講しています。講習は月に2回実施しており、従業員には年1回以上の研修への参加を推奨しています。 さらに、毎年総合防災訓練に加え、帰宅困難者訓練を実施しています。公共交通機関が運行を停止した場合を想定して、一時滞在施設を開設し、その中で、お客様の誘導や女性専用スペースの確保、困りごと相談カウンター設置などの訓練を行います。東京ドームシティでは災害時に備えて、水・食料・簡易トイレを3000人×3日分用意しています。 防災介助士講習を受けてみて 東京ドームシティでは防災訓練などは頻繁に行っているのですが、障がいがある方への応対方法にはまだ取り組んでいませんでした。今回この防災介助士講習で学んだことを、これからの研修に生かしていきたいと思います。 防災介助士 資格のご案内 いつでも起こりうる災害について普段からどのように備えるか、災害時にどのように行動するかを理解し、実践できるのが防災介助士です。もしものときに役立つ知識や技術を身に付けることはもちろん、日常から防災を意識することで、被害を最小限に抑え、自分や大切な人を守ることができるのです。個人に限らず企業や学校関係の方も、講習へのご参加をお待ちしています。 知る 守る 助ける 詳細・お問い合わせはこちら! http://www.carefit.org/ P25 (誌面構成に対応し、P22まで逆順で抽出) 担当者インタビュー やさしさの現場から 〜From the scene of tenderness 〜 それぞれ特色はあれど、共通するのは「おもてなしの心」の実践。サービス介助士の導入を進めている4行の現場担当者にお話を伺いました。 河端さん 大石さん 小野さん だったらこの際、ウチは全員で取得しよう、と。 西日本シティ銀行 八女支店スタッフ全員がサービス介助士資格を取得。今後は全店舗への介助士導入や、車いすの設置なども進めていきたいとのこと。 八女支店 支店長 大石 尚志たかしさん 営業企画部 小野 大輔さん 営業推進部 CS 推進室 河端 美和さん 文:城田晃久 支店の新規オープン時にスタッフ全員が取得。 小野さん:2014年8月の八女支店新装オープンに合わせて、支店のスタッフ全員がサービス介助士資格を取得しました。その背景には高齢者の割合が非常に高いという八女地域の特性があります。ここにお住まいのお客さまが何を不便に思われるのか、そのニーズに対応するためにはどういったことが必要なのかを模索していたときに、サービス介助士という資格に行き着いたんです。ただ、当時は当行で資格を持っているのは河端ひとりという状況でした。 河端さん:隣接する他行ではお客さまサービスの一環として車いすを全店舗に配置し、サービス介助士の資格取得者を各店舗に配置されているという話を聞いておりましたので、CS推進室に在籍している私としては、当行でもぜひ進めていきたいと考えていました。それならまずは自分から始めてみようという思いで取得したという訳です。 大石さん:だったらこの際ウチは全員で取得しよう、と。スタッフに呼びかけたところ想像以上に積極的でしたね。介護の必要な方が身内にいたりと、身近なテーマだったのでしょう。 「資格」から「おもてなしの心」へ。 大石さん:資格取得後はスタッフのお客さまとの関わり方がこれまでとは全く異なっているのを感じています。コミュニケーションがとてもよく取れていますし、隅々まで気を配れるようになっていますね。私自身もOB会の集まりで車いす利用の方への介助や移乗を実践する場面があったり、業務以外の場面でも役に立っていると感じています。 河端さん:その他の取り組みとして、聴覚障がいのあるお客さまへの対応がスムースに行えるよう、手話をまとめたVTRを制作して朝礼時に練習しています。お客さまから「上手だね」と褒めていただけたりするので、行員も楽しみながら学んでいます。 小野さん:お客さまに「この銀行には介助士の資格を持っている人がいる」というだけでなく、「おもてなしの心を持っている人がいる」、そんな印象を持っていただけるように、サービスの向上に取り組んでいきたいですね。 P24 常陽銀行 点字カレンダーを視覚障がい者団体へ寄贈したり、地域の特別支援学校生をインターンシップで受け入れるなど、幅広い社会貢献を続けている。 営業統括部お客様サービス室 堀口 さやかさん 他の行員のお手本になれるよう、身だしなみや接客マナーに気を配るだけでなく、人間的にも成長していくのが目標。 趣味はショッピング、食べ歩き、旅行。 おもてなしのハートの部分をしっかり学べました 取材・文:熊本美香 撮影:大木大輔 気持ちを汲み取ることと声かけの大切さを知る。 当行では、身体の不自由なお客さまやご高齢のお客さまにより安心して銀行を利用していただくために、2013年から全営業店にサービス介助士を配置しています。現在までに約240名が資格を取得しており、私も、支店での窓口業務からお客様サービス室に異動になった際にサービス介助士の資格を取得しました。 サービス介助士の講習では、車いすの操作方法といった介助技術だけでなく、相手の気持ちを理解することの重要性に気づかされました。例えば高齢者疑似体験。目には白内障ゴーグル、手足には関節の動きを制限するサポーターや重り、さらに耳栓をした状態では、文字を書くこと、聞くこと、歩くことなどが想像以上に大変で、ご高齢の方のご苦労の一端を感じました。 もちろん、ご高齢の方でも自分でできることはたくさんあるということも学びました。だからこそ『何かお困りのことはありませんか?』と積極的にお声がけして、お客さまを尊重し、その気持ちを汲み取ったサービスを心がけるようになれたと思っています。その心がけが実を結んだのか、最近はお客さまから銀行に対してお褒めの言葉をいただける機会が増えたように感じています。 “おもてなし”の心を行内全体に広めていきたい。 講習での体験は、日常生活での行動の変化にも結びついていると思います。私は旅行が趣味なのですが、ハワイへ行ったときには車いすのサイズが大きくて驚きました。また、新興国では道路が未舗装だったりするので、車いすが必要な方には暮らしにくいだろうな、と今まで気にしなかった部分にも目が届くようになりました。日本でも、お店のエントランスにスロープがなかったりすると、ついつい気になってしまいますね。 当行では、サービス介助士資格取得者を中心としたお客さま対応の向上に加えて、営業店のちょっとした段差や石畳などをなくしてバリアフリー化を進めるなど、ハード面の整備も進めています。また、雨の日には「足元の悪い中ご来店ありがとうございます」、高額の現金を持ち帰る方には「どうぞお気を付けてお帰りください」など『プラスワンフレーズ』の声がけも徹底し、お客さまの気持ちに寄り添うおもてなしの心を忘れないよう心がけています。 今後の目標としては、もっとお客さまに喜んでいただくために、サービス介助士のノウハウを行員同士で共有して行内全体におもてなしの心を広めていきたいと思っています。 P23 東京スター銀行 すべてのお客さまに満足いただける銀行を目指して、全店でサービス介助士の資格を推奨。成績評価の対象とし、費用負担も行っている。 営業店統括グループリーダー 坂口 耕一さん 趣味はスポーツクラブ通い。座右の銘は「自考自調」。「自分で裏付けをして、それを積み重ねることが大切」と語る。息子さんとの晩酌が何よりの楽しみ。 普段の生活でも積極的に声かけができるようになりました 取材・文:城田晃久 撮影:大木大輔 支店長が率先して取得し、現場への浸透を図る。 当行をご利用いただいているお客さまのうち約7割が60歳以上の方で、なかにはお手伝いを必要とされている方もいらっしゃいます。当行では、お手伝いを必要とされているお客さまをはじめ、すべてのお客さまに満足いただける銀行を目指して、これまでも、車いすご利用の方でも使いやすいATMや杖ストッパーの設置、点字ブロックの敷設といったハード面の対応を進めてきました。サービス介助士資格取得の奨励は、その次のステップ、すなわち、どのような心構えでお客さまをお迎えするかというソフト面での取り組みのひとつの柱となっています。 当行の取り組みの大きな特徴として、支店長は全員資格を取得しており(※)、その他の管理職にも推奨が行われている点が挙げられると思います。お手伝いが必要なお客さまが来店されたときに、まずは支店長が率先して行動する。支店長が率先して対応することで現場の意識が高まっていく形を理想としています。実際に、支店長が研修で得た知識や経験を共有することで、管理職以外のスタッフも積極的に取得する動きが広がっています。今後は全店スタッフの資格取得を目指し、銀行全体でお客さまにご満足いただける接客に取り組んでいく所存です。 体験して知ることで心構えに大きな差が出る。 当行では、さまざまなお客さまサービス向上のための研修を取り入れていますが、多くは通信制の机上研修です。一方、サービス介助士は、具体的な実技体験を通して介助サービスを学ぶことができる。そこが大きな特長だと感じています。例えば車いすの基本的な操作方法ひとつとっても、ブレーキのかけ方や移乗のやり方を体験として知っているのと知らないのとでは、お客さまに対応するときの心構えに大きな違いが出てくると思います。 私自身も、研修時の高齢者疑似体験を通して、いかにご高齢の方が普段の生活で不便を感じていらっしゃるか知ったときの衝撃はとても大きかったですし、おかげで業務だけでなく普段の生活でも、お手伝いが必要そうな方へ積極的に声かけができるようになりました。 当行でこうした取り組みが盛んになったのは東日本大震災が大きな契機であったと思います。震災直後からボランティア活動を通して被災地の方々をご支援させていただいており、今でも定期的なボランティア活動に取り組んでいます。継続的な支援を行うことが大切であるという意識を忘れずに、今後も続けていきたい活動のひとつです。 ※2015年6月1日時点 P22 担当者インタビュー やさしさの現場から 東邦銀行 積極的な地域貢献、被災者支援を行っている東邦銀行。サービス介助士資格講習は希望制にも関わらず、回を重ねるごとに受講生が増えているそう。 人事部 主任調査役 鈴木 公紀さん 最近犬を飼い始め、お子さんと一緒に散歩に行くのが何よりの楽しみとのこと。陰徳陽報の精神を心掛け何事にも取り組んでいます。 取材・文:城田晃久 撮影:大木大輔 “気づき”を得られるのがこの資格のポイントだと思います 大切なのは“技術”よりも寄り添う“心”。 当行の主な営業地域である福島県は高齢者の多い地域ということもあり、ご高齢の方や障がいのある方にご満足いただけるよう、バリアフリー化や障がい者向けATMの設置、車いすの配備などを進めてきました。2013年からサービス介助士の資格取得を推奨し、これまでに約350名が資格を取得しています。 お客さま対応においては、“技術”の向上だけではなく、お客さまに寄り添う“心”を持つことが大切である、というのが当行の基本的な姿勢です。高齢者疑似体験などを通して相手を思いやる気持ちを高められるサービス介助士の講習は、とても有意義な機会になっています。 この資格の大きなポイントは、誰がなにを困っているのかという“気づき”を得られる点。それはお客さま対応に留まらず、家庭での介護や、職場での周囲への目配り、コミュニケーションの活性化といった副次的な効果ももたらしてくれていると感じています。 福島県では、未だに震災の影響を強く受けている方が大勢いらっしゃいます。私たちはそのような方々に寄り添い続けていきたいと思っていますし、そんなときこそが、サービス介助士資格を生かす場でもあると考えています。 特例子会社「とうほうスマイル」では、日々社員が生き生きと働いています。 東北の金融機関 初の特例子会社 「とうほうスマイル」 「すべてを地域のために」をコーポレートメッセージとしている東邦銀行では、障がい者雇用にも積極的に取り組んでいる。その一環として、2012年3月に、障がい者が中心となって働く「株式会社とうほうスマイル」を設立した。これは東邦銀行創立70周年の記念事業でもあり、北村清士頭取が陣頭指揮を取って推進されたという。「東日本大震災が発生し停滞が懸念されたのですが、こんなときこそこの事業が必要だ、という頭取の強い信念で実現に至りました」と立ち上げから業務に携わってきた常務取締役の大高敏雄さんは語る。同社では東邦銀行で使用する書類や名刺の作製、印刷、封入などを中心とした業務を行っており、「彼らは、ひとつのことに集中する、間違いを発見するといった能力は非常に高いものがあり、お客さまに喜んでいただけることを誇りに思って働いてくれています」(大高さん)。障がい者の定年までの雇用を前提として設立された「とうほうスマイル」。前例の少ない障がい者雇用事業モデルとして、県内外事業者の熱い視線を集めている。 「とうほうスマイル」の阿部邦昭代表取締役社長(右)と大高敏雄常務取締役(左) P30 (誌面構成に対応し、P26まで逆順で抽出) Interview with leader これからの お客さまサービスとは 創業以来、チャレンジ精神を重んじ、顧客目線のサービス改革を打ち出してきた東京スター銀行。取締役兼代表執行役頭取入江 優さんに、銀行業界におけるお客さまサービスの現状と、CSR 活動の意義について聞きました。 取材・文: 城田晃久 撮影: 大木大輔 顧客ニーズに合わせたサービスの変化 東京スター銀行 取締役兼代表執行役頭取 入江 優さん 顧客の多様なニーズに 応えるサービスを 銀行業界においては、ここ数年で急速にご高齢のお客さまや障がいのあるお客さまにも利用しやすい環境づくりが進みました。理由としては、超高齢社会に伴う世の中の変化と、銀行をご利用いただくお客さまの多様化が挙げられます。 以前は送金や預金といった手続きのために来店されるお客さまがほとんどでしたが、最近は投資や資産運用のご相談を目的としたお客さまが増えてきました。ご高齢のお客さまや障がいのあるお客さまにとっては、手続きだけであれば代理の方にお願いできるかもしれませんが、資産運用や借り入れのご相談となると全て人任せというわけにはいきません。ですから、多様なお客さまが来店されることを前提にサービスを見直す必要があったのです。 そのような経緯もあり、銀行業界は、ホテルや小売業界などと比べるとご高齢のお客さまや障がいのあるお客さまへの対応が出遅れているという点は否めません。当行でも、店舗のバリアフリー化の推進や障がいのあるお客さまも利用しやすいATM などが全店に導入されたのは2013 年。まだまだ課題は山積されていると思います。 東京スター銀行 2001年創業。「ファイナンシャル・フリーダム」を掲げ、中堅、中小企業、個人に至るまで、お金に関する相談に対して真摯に対応、パートナーとして共に歩むことをモットーとしている。 東京スター銀行 取締役兼代表執行役頭取 入江 優(いりえ まさる) 2011年6月より現職。リフレッシュ方法は、ゴロゴロせず体を動かすこと。ゴルフが趣味で、休みの日には奥さまやご友人と楽しまれているとのこと。座右の銘は「平常心」「論理的思考」。 P28-29 対応が行き届いていると 考えないことこそが重要 他業種を参考にして サービスを拡充 当行では、すべてのお客さまに“満足”いただける銀行を目指してホスピタリティの向上に取り組んできました。例えば各店舗への「グリーター」の配置。入り口付近に設置されたブースから、グリーターと呼ばれるスタッフがお客さまに声をお掛けするシステムです。ご予約のお客さまであれば窓口をご案内し、そうでなければご用件をお伺いする。ホテルのドアマンのイメージですね。銀行でこのようなシステムを取り入れているところは珍しいのではないでしょうか。ですが、デパートなどではずいぶん以前からグリーターを置いていましたし、最近では役所にも案内係が常駐しています。銀行業界全体の取り組みが遅れている分、他業種からよいシステムを取り入れる姿勢は常に持ち続けていなければいけませんね。 常に目配りをし、 対応を改善していく また、いくらハードが充実したといっても、お客さまへの対応が十分行き届いていると考えないことこそが重要だと考えています。常に、不都合を感じているお客さまがいるのではないか、という気持ちで店内を見渡すこと。それはご高齢のお客さま、障がいのあるお客さまに関わらず、すべてのお客さまに対して、私たちが忘れてはいけない心構えだと思います。例えばATM の製造メーカーさんはとてもよく研究されていますね。ただ音声対応の電話機が付いている、画面が低いところにあるというだけでなく、キーの配置や電話の位置まで徹底的に工夫されている。私たちもそのような姿勢を学んでいかなければいけないと思います。 そして、さらなるホスピタリティの向上のためには、逆説的ではありますが、お客さまからのクレームに真摯に耳を傾けるということ。どうすればそのお客さまに気持ちよくお帰りいただけたのか、現場任せにせずに改善策を練り上げ、徹底させることが重要だと考えています。 サービス介助士資格を 接客の基本にしたい サービス介助士の導入も、引き続き取り組んでいきたい施策のひとつです。高齢になれば体が思うように動かせなくなるということを、講習のなかで身をもって経験できるというのはとても有意義なことだと思います。どれくらい大変なのかわかっていないとお手伝いのしようもないわけですからね。さらに、お客さまを大切にする、気持ちよく帰っていただくという意識そのものを、サービス介助士の技能と知識を基本にすることでさらに向上させることができる。そこにも大きな意義があると思います。接客というのは私たちにとって最も基礎になる部分ですから。今は全支店長に資格の取得を推奨していますが、これからは現場営業、本部行員へと広げていくことも視野に入れています。 P26-27 ミクロな視点を大切に ニーズにお応えしたい ミクロな視点からの 継続的なCSR活動 私どもの考えるCSR は、ミクロな視点を大切にする、という点が特徴だと思います。例えば東日本大震災後の対応についても、一般的な寄付活動に留まらず、継続的かつミクロな取り組みを重視しています。今でも新入行員研修でボランティア活動を行ったり、定期的にボランティアツアーを開催したりといったことですね。 私も震災直後から新入行員と一緒に宮城県南三陸町まで伺って瓦礫撤去のお手伝いをさせていただきました。つい先日も電車を乗り継いで行ってきたのですが、迂回したり途中でバスに乗り換える必要があったりと、当時と比べれば、復旧から復興へ向かいつつあるものの、まだまだこれからという印象を強く受けました。また、仮設住宅で暮らしているお子さん達向けに寺子屋教室のイベントを実施したこともあります。これからも、地域の産業復興など、住民の方のニーズをお聞きしながら、継続的な支援活動を行っていきたいと思っています。 また、CSR を推進するにあたって、私たちは日本経済をかさ上げするためになにができるのか、という考え方が一番重要だと思っています。今我が国では、女性が活躍できる社会づくりを積極的に進めていますが、当行では男女問わず、能力の評価どおりに管理職に就いてもらっています。そして育児休暇を取る女性には必ず帰ってきてくださいね、と声を掛けています。実際に育児休暇後の復職率は100% をキープしています。 そのような形で社会と共存共栄していこうとする姿勢でないと、ビジネスそのものが持続的に成長していかないんですね。必ずどこかで歪みが出てくるんです。 常に忘れない 改善に対する意識 先ほど申し上げた通り、銀行業界は障がいのあるお客さまやご高齢のお客さまへのご対応が不十分な部分があります。その遅れを取り戻すには、まずは今やっていることを徹底すること。サービス介助士資格にしても、支店長だけでなく現場担当、本部行員まで取得推奨の幅を広げる、建物の構造上完全にバリアフリー化できていない店舗については移転を検討する、といったことですね。そのうえで改善すべき点を常に探し続けること。欧米を基準にすれば日本のバリアフリー化もまだまだだと思いますし、少しでもその基準を上げられるよう、お客さまのニーズに敏感に対応していきたいと思います。 持続的な発展のために 社会と共存共栄していく すべてのお客さまに満足していただくために、サービス介助士を始めとするさまざまな資格保有者が対応する。 視覚に障がいのあるお客さまや車いす利用のお客さまでも使いやすいように、細かいところまで工夫の行き届いたATMを採用。 「食事は好き嫌いせずになんでもよく食べますよ」と語る入江頭取。ワインと合う食べ物を探すのが楽しみとのこと。 P31 KIZZNA 紲 きずな 見えなかった景色が見えてくる「気づきのマガジン」2015 Autumn Vol.5 vol.5 Kizzna 2015 Autumn CONTENTS 31 巻頭インタビュー 「これからのお客さまサービスとは」 東京スター銀行 取締役兼代表執行役頭取 入江 優さん 25 担当者インタビュー 「やさしさの現場から」 西日本シティ銀行/常陽銀行 東京スター銀行/東邦銀行 21 care-fit通信 17 教えて先生! その契約ホントに大丈夫? 〜事例で考える高齢化社会の契約問題〜 16 Care-Fit INTERVIEW オリエンタル・ガード・リサーチ 14 ボランティア活動TOPICS 13 もうひとつのアートの世界 アーティスト 持田想一さん 12ケアフィットファーム勝沼 レポート/自宅レシピ 10オ! シゴト・バリ体験 〜インタビュアーになる旅〜 08生きがいインタビュー 写真家 高島史於さん 02巻頭インタビュー 「共に、走る、ヒト。」 仲間を信じろ ブラインドサッカー日本代表監督 魚住 稿さん 次号予告 『紲 Kizzna』vol.6は 2015年11月25日(水)発行予定です。