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テレビドラマの『silent(外部サイト)』では、主人公・青羽紬(演:川口春奈さん)の元恋人・佐倉想(演:目黒蓮さん)は高校卒業後に耳が聞こえなくなる中途失聴者(ちゅうとしっちょうしゃ)になりました。
『silent』で‘難聴’や‘中途失聴’という聴覚障害を知った人もいると思います。
この記事ではサービス介助士の学びの中でお伝えしている学習内容の中から、難聴・中途失聴者の困りごとや中途失聴者とのコミュニケーション方法について紹介していきます。
中途失聴とは簡単に言うと人生の途中で何らかの理由で聴力を失ったことを言います。
中途失聴者は言葉を覚えた後で聴力を失っている場合もあるため、聞こえなくても話せる(発話できる)人、周囲から聴覚障害者と見なされても手話は使えない(使わない)人、失聴後に手話を身につけ、手話でコミュニケーションを取ることを基本とする人など様々ですが、相手の話している言葉は聞くことができないため音声言語でのコミュニケーションには困難を抱えています。
難聴とは、聞こえにくいものの、一定程度の聴力が残っている状態のことを言います。中途失聴の違いは、残存聴力があることですが、広い意味で「中途失聴」と「難聴」を含めて「難聴」とすることもあります。難聴者の中には補聴器や人工内耳などで残存聴力を活かして音声情報を取得する人もいますが、わずかな音しか聞き取れない人もいます。
ろう者とは音声言語を身につける前に聴力を失っており、主に手話をコミュニケーション手段とする人のことです。
中途失聴との違いは手話をコミュニケーションの基本としていることです。ろう者の中にも残存聴力があり補聴器を利用している人がいますが、ろう者の多くは手話を使用しています。しかし、ろう者かどうか、というものは残存聴力の程度や手話言語使用の有無ではなく、その人自身が自分をどのように認識しているかというアイデンティティに関わるため、一概に定義することはできません。
中途失聴の原因は事故や病気、騒音、ストレス、遺伝などです。
失聴や難聴を含めた聴覚障害には、耳のどの機能に障害があるかで分類され、その分類の中でも様々な原因があります。サービス介助士の学びの中でも紹介していますが、代表的なものをお伝えします。
伝音難聴とは外耳または中耳が何らかのダメージを受けたことで内耳に音が伝わりにくくなる難聴です。
衝撃によって内耳にある鼓膜が破れたり、腫瘍や感染症、身近な例では中耳炎などが原因です。
感音難聴とは蝸牛(かぎゅう)などの内耳や聴神経に何らかの異常があることで音が感じにくくなる難聴です。
感音難聴にも様々な原因があり、『silent』では佐倉想は18歳で若年発症型両側性感音難聴にかかり、徐々に聴力を失う中途失聴者となりました。
若年発症型両側性感音難聴とは、40歳未満の若年に発症し両耳の聴力が低下する難聴で、遺伝子の変化が原因とされていますが発症のメカニズムや治療法が依然解明されていない難聴です。
感音難聴の原因には、薬剤の副作用によって引き起こされる薬剤性難聴や、加齢によって音を感じ取る細胞の減少や機能低下によって聞こえにくくなる老人性難聴、工事現場や大きな音の出る空間に長時間いることで内耳機能が損傷を受ける騒音性難聴、原因は分かっていないもののストレスなどが要因と考えられる、突然聞こえが悪くなる突発性難聴などがあります。
最近ではイヤホンやヘッドホンを使った音楽鑑賞や動画視聴が増加したことにより、若い人の中で騒音性難聴と同様の症状や聴覚機能への負担が増えています。通常30代から聞こえは低下すると言われますが、これを加速させる要因となっています。
突発性難聴は年間 3万人以上発症しており、誰にでも起こりえる難聴です。そのままにしておくと症状が改善しなくなるため、聞こえづらいと感じたら早急に(その日のうちに)耳鼻科で診察することが重要です。
混合難聴とは伝音難聴と感音難聴の両方の難聴が合わさったものを言います。
中耳炎による伝音難聴が中耳にまで影響したり、老人性難聴は基本的に感音難聴ですが加齢により混合難聴となり、伝音難聴、感音難聴どちらの度合いが強いかは人により異なります。
人生の途中で聞こえなくなった中途失聴者・難聴者ならではの困りごとが様々あります。
『silent』の他にもこれまで様々な作品で中途失聴者や難聴者を含めた聴覚障害者が登場人物となるものはありますが、実際は様々な事情で失聴・難聴になり、中途失聴者に必ずある特徴的な困りごとというものはなく、困りごとも人それぞれです。
ここではいくつか困りごとの事例を紹介していきますが、固定的な捉え方をしないよう注意が必要です。
『silent』の佐倉想は聴力を失って以降、通常は発話せずに手話でコミュニケーションをとる設定になっていますが、音声言語を習得してから失聴した人は発話には問題がなく、基本的に手話は使わず、普通に話すことができる人が多いです。
例えば別のテレビドラマである『ファイトソング』の登場人物である杉野葉子(演:石田ひかりさん)や木皿花枝(演: 清原果耶さん)は中途失聴者ですが、発音に問題なく流ちょうに話すことができています。
これは成人してから失聴しているため、それまでの聞こえている生活の中で身についた発声ができているからです。
また、話の流れを推測しながら口話(読話)によって相手の言うことを読み取る訓練をしている人もいます。
このため聴覚障害がなく、普通に会話ができるように思われる、話せるので聞こえると思われることが多くあります。
しかし実際は早口や複数人でのやり取り、暗いところなどでは困難であり、口話(読話)は、周囲が想像する以上に集中力を必要とします。
中途失聴者を含む聴覚障害者は多くの人は見た目からでは特徴があるわけではなく、その障害が分かりません。
例えば、職場や学校に向かう通勤・通学路で 1日に何人の聴覚障害者とすれ違っているか把握できている人はいないはずです。見た目では聞こえる / 聞こえない、障害がある / ないは判断ができないからです。
中途失聴者は社会生活において何らかの社会の障害(バリア)に出会うことで初めて困難や障害が生まれ、その困りごとが周囲には伝わらないことが多いです。
『silent』の佐倉想は中途失聴となった後は発話で情報伝達をせずに手話を使うようになっていますが、中途失聴者が必ずしも手話を使うわけではありません。しかし、中途失聴者をはじめ聴覚障害者と接したことがなく、「聴覚障害者」像をドラマやマンガなどでしか形成する機会がなかった人にとって、“聴覚障害者 = 手話が使える“という固定観念を抱きがちです。そのため、発話できて手話が使えない中途失聴者という人に対して“本当に聴覚障害者なのか”と疑問を持つケースもあります。また、逆に自分も手話が使えないとコミュニケーションが取れない、と誤解されることもあります。
ここまで紹介した中途失聴者の困りごとは主に個別の対人コミュニケーションや偏見が原因となるものでしたが、私たちの社会が「聞こえること」が前提となっているために様々な制度や設備において中途失聴者が困ることがあります。
障害を個人の側ではなく、社会が作り出している、という「障害の社会モデル」の観点で見てみましょう。
例えば店舗や企業サービスにおいて緊急時の案内やイレギュラーな対応などは音声情報で行われることがあります。東日本大震災では津波警報が街中でのスピーカーから発せられ、聴覚障害者に届かなかったケースやクレジットカードの紛失や解約のためにまず電話で問い合わせる必要があることもあり、通常の対応ルートとは異なることもあります。
中途失聴者は失聴により仕事を余儀なく辞めざるを得なくなった人もいれば、職場も変わらずに働く人、転職時に障害者雇用枠の仕事に就く人などいます。
インターネットやチャット、音声変換ツールなども発達してきて従来よりコミュニケーションがとりやすくなっていると言えますが、オンラインでの打ち合わせや、複数人での会議などでは音声主体で情報交換がされるため困難になります。
公式な場面では字幕や文字おこし支援があることも増えたものの、非公式な場面や社内のちょっとした雑談には加わりづらく、中途失聴者の仕事には様々な困りごとが重なっています。
ここまでお伝えしてきた通り、中途失聴者の状況は様々で、『silent』のように手話を使う人もいれば、喋れるものの聞き取れないため相手の内容は口話(読話)で汲み取る、という人もいて様々です。
サービス介助士でお伝えしているいくつかの方法でのポイントをお伝えします。
口話(こうわ)とは、相手の口の形から話の内容を読み取る読話(どくわ)と言葉を発する発話の総称です。中途失聴者に向かって口の動きが分かりやすいように話すことでコミュニケーションを取ります。口話では以下のようなことに気を付けます。
口話は慣れや相当な訓練が必要な場合があり、全ての中途失聴者ができるわけではありません。また複数の人と話す機会や、現在のようにマスクをしていてそもそも口元が見えない状態ではコミュニケーションを取ることが困難です。
筆談用のメモ用紙や筆談器を使って文字で意思疎通をする方法です。話す内容を全て書くのではなく、必要な情報だけ簡潔に書き、口話やジェスチャーで補足します。
契約や金額など十分な確認が必要な情報については齟齬がないように筆談で伝えることが重要です。
近年のデジタル端末には音声文字変換機能やアプリがあります。精度も速度も向上してきており、中途失聴者向けのコミュニケーションとしても利用することができます。コロナ以降、オンラインでの打合せが増え、ギャラリービューで一人一人の顔は見えるものの、何を話しているかまでは画面上では分かりません。近年、ようやく字幕機能が付くものも増えてきましたが日本語には対応していないものも多く、コロナ禍での聴覚障害者への情報伝達は課題が残っています。
口話や筆談を使いつつ、音声翻訳ツール・アプリも利用することでそれぞれの欠点を補いながらコミュニケーションを取りましょう。
この他にも職場や自社サービスで提供する情報が視覚・聴覚情報のどちらかだけになっているものがないか確認し、情報のバリアをなくしていくことが中途失聴者を含めた多様な人とのコミュニケーションの取りやすさにつながります。
ドラマをきっかけに中途失聴や難聴について関心が高まれば、聴覚障害者が経験する困難にも気づくことにつながるきっかけになります。一方で作品上の演出と現実の社会では異なることもあり、様々な‘違い’に触れることが重要です。
サービス介助士の資格では高齢者や様々な障害について学び、多様な人とのコミュニケーションを身につけることができます。障害当事者もカリキュラム作成に関わり、障害当事者との対話の機会も用意されています。
思い込みや偏見に気づいて職場や地域のダイバーシティ&インクルージョン推進をできる人になっていきましょう。
「サービス介助士」は障害者や高齢者など多様な人とのコミュニケーションを学び、誰もが暮らしやすい共生社会に寄与する資格です。2000年から始まったサービス介助士は資格取得者20万人を超え、公共交通事業者やダイバーシティ、アクセシビリティ推進が欠かせない事業を展開する企業1000社から導入されています。カリキュラムは様々な障害のある人と共に作成し、聴覚障害についても聴覚障害当事者の声を反映した内容になっています。
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