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(左から)
・取締役相談役 奥田 雅宏 さん
・東京サービスセンター 主任 茂木 真由美 さん(東京駅折り返し清掃・作業責任者)
・田端サービスセンター 主事 小沢 幸子 さん(車両基地清掃・インストラクター)
・おもてなし創造部 副課長 村上 幸子 さん
株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(テッセイ)は、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の東京・小山エリア(東京駅、上野駅、田端・小山の車両基地(新幹線車庫)及び那須塩原の車両留置線)における新幹線車両や駅コンコース、乗務員宿泊施設等の清掃業務の他、田端車両基地で構内運転業務等を担っています。
新幹線の到着から発車までのわずか7分の停車時間のうちに、車両清掃、トイレ掃除、ゴミ出し、座席カバーの交換や忘れ物のチェックまでスピーディにこなす姿はまさに圧巻のひとこと。
今回は、7月にサービス介助士を取得された方、現場の第一線で働いている方を交えて、「おもてなし」の信念を伺いました。
ーー先日はサービス介助士資格取得講座をご受講いただきまして、ありがとうございました。率直なご感想をお聞きしたいのですが、いかがでしたでしょうか?
茂木さん思っていた以上にハードでした。
高齢者疑似体験で、関節のところに重りをつけたり、白内障ゴーグルをつけたりしたのですが、想像以上に負担があるのだなと思いました。
小沢さん障害者や高齢者の方へのお声掛けの方法など、基本を学べて凄く自分の為になったなと思います。とても良い経験をさせていただきました。
奥田さん私がそれこそ前期高齢者になっていますので、これから自分の身に迫っていることですし、いつ何時そういうことが起ころうとしてもおかしくない可能性がある中で、こういったことを勉強させていただいたのは本当によかったです。
試験のために学ぶというより、「もう少し深いことを勉強しなければ」という気が起きるような内容だったように感じました。
ーーサービス介助士を受講したことによって、貴社内で気付きや意識の変化などありましたか?
小沢さん私は基地清掃なのでお客さまと接することはないのですが、講習を受けてから、プライベートで今まで生活していた中で気がつかなかったことがたくさんあるのだと感じました。
例えば私が利用している駅は、スロープの横幅があまり広くありません。
車いす一台が通っているとき、もし向かいからベビーカーでも来たらどうするのかなとか。あとは段差も結構多いですし、「つくづく多数派の社会だな」ということに気付かされました。
また、通勤時に駅で白杖をお持ちの方がお困りの様子に気付いた時、手引きのやり方を学んでいたことで、自信を持って声をおかけし、ご案内することが出来ました。
茂木さん今社内で、女性やシニア層がもっと頑張れる職場づくりなどを勉強・提言し、自らも率先して行動に移していくことなどを目的とした「キラキラ未来プロジェクト」という、女性を中心にしたプロジェクトを立ち上げて、活動しています。
スタッフから様々な話を聴く中で、コロナ禍ということもあり、こちらからお客さまに声を掛けづらいという話を聞きました。
お困りのお客さまに対して社員から積極的にお声かけを行う“「声かけ・サポート」運動”に合わせた取り組みとして、「サービス介助士取得者は名札にそれを表記したらどうだろう」という話になりました。
茂木さん社員の名札バッジが何パターンかあるのですが、「キラキラ未来プロジェクト」のメンバーが、サービス介助士を取得しているインストラクターや障害のある方にも相談しながら、色々デザインを考えて名札に取り付けるプレートを作りました。
ーーピンクや緑、黄色、金色のバッジもあるのですね。
茂木さん金色は新幹線のグランクラス車両の清掃やお困りのお客さまのご案内等を専門に行う「コメットスーパーバイザー」が付けているバッジですね。
奥田さんサービスセンターごと、職制ごとにデザインが違います。本当は統一したいのですが……。
村上さん駅で担当しているスタッフの名札には「サービス介助士」と合わせて「お気軽にお声がけください」という記載を、基地清掃は小沢さんの名札のように「サービス介助士」の表記だけを、というように、最初に名札を2パターン作ったのですが、「サービス介助士をまだ取得していないけれどもサポートしたい」という社員も後から出てきてくれて、嬉しく思います。
そういったスタッフに向けては、「お気軽にお声がけください」とだけ表記したプレートも作りました。
茂木さんスタッフからも「遠くから見ても目立つよ」と言われたり、名札をきっかけに「サービス介助士ってどういう資格なの?」と尋ねられたりします。 少々「お気軽にお声がけください」の文字がお客さまから見えづらいかと思いますが、私たちがホーム上で待機しているときに、困っているお客さまが「誰に聞いたらいいんだろう」と探されている時に結構目に入りやすいのではないかと思います。
ーー冒頭で車いすの操作が難しかったと仰っていましたが、業務中実際に車いすを操作したことはありますか?
茂木さんまだ自分で車いすご利用のお客さまをご案内したことはありません。
ただ、前に私がコメットスーパーバイザーに所属していた時に、そのチームのメンバーで既にサービス介助士の資格を持っているスタッフがいました。
車内で座席から車いすに移乗されるときに、手間取っているお客さまがいらっしゃったことがありました。ご家族の方もいらっしゃったのですが、それでも少し大変そうにしていらして。
そんな時に、サービス介助士の資格を持っているスタッフがスッと移乗のお手伝いをしていたのを見て、「すごいかっこいい」と……。「かっこいい」は言葉が違うのかなと思いますが、普通に当たり前のようにやられていたので、「私もこういうふうになれたらいいな」と思いました。
それがサービス介助士という資格があることを知るきっかけになった出来事です。
奥田さん現場第一線の社員がチャレンジしようとしていること、会社が一体となって進めようとしているようなことについては、やはり身近な存在でいたいということが本音としてありましたね。
それから個人的に、「人対人の関係を築くうえで一番人間として大切なことにあらためて気づく機会になるのではないか」「それなら積極的に学んでみよう」と思っていました。
他の管理職の者も、できれば受けてほしいとは思っていましたが、私が「受けろ」と言ったわけではなくて。それでも自ら受けてくれた人がいたことは本当に嬉しかったですね。
今や古い体質かもしれませんが、当社には、「自らの背中を見せる」という私としては大切にしていきたい企業風土があります。そうやって背中を見せる人がいたからTESSEIがあるし、私の背中を見て、同じ思いを抱いてくれる人が増えてくれればいいなという思いがありました。
ーーコロナ禍の貴社での取り組みや意識の変化などはありましたか?
茂木さん手指の消毒とかは勿論なんですけど、ソーシャルディスタンス……距離を保たなくてはいけないという意識はありますね。
奥田さん今まではお子さまにポストカードやシールを「どうぞ」とこちらから踏み込んでお渡ししていましたけど、「よろしければ受け取ってください」というように、言い方含めて変わってきています。
茂木さん泣き出したお子さまにお渡しすると泣き止んで「ありがとう」と言ってくれたりもするんですよ。
奥田さん以前はそのままお渡ししていたものを、今はビニール袋に入れてお渡ししているケースもあります。
村上さん新幹線が嬉しくて、ホームを走り回るお子さまもいらっしゃいますが、そういったとき線路に落ちないよう気を引くために、直接お子さまにお渡ししたりするときもあります。
ーーそういった使い方もされるのですね。
奥田さん「お客さまに喜んでいただこう」ということもありますが、一番の目的はそういったようにお子さまがご家族の手を離して走り回ったりして、大変な事故につながらないようにしていただくという、ホーム上の安全確保のためのお願いなのです。
ポストカードやシールの裏側には新幹線ご利用の際のマナーや、今は感染症対策に「消毒しましょう」といったことを書いています。
そういったものは村上さん中心で行ってくれています。
村上さん最初は新幹線のイラストだけだったのですが、お子さまにお渡しする中で「新幹線の写真も載せてほしい」といったような色々な声がスタッフから上がってきまして、皆の意見を形にしていく感じで作っています。
ーーデザインも村上さんが手掛けているのでしょうか?
村上さんはい。以前、東京駅でコメットスーパーバイザーにおりまして。元々コメットスーパーバイザーは巡回清掃をしながらお客さまのご案内を行うチームでした。そのチームのメンバーで「お客さまに何かできないか」というのを考えて。まず新幹線をご利用のお子さまの思い出に残るような車両図鑑を作ってみよう、配ってみようというところからスタートしました。
私がコメットスーパーバイザーに所属していた時はまだグランクラスはありませんでした。単なる清掃の会社から一歩踏み出して、お客さまのおもてなしに力をいれていこうということで、私もその時に社内で一番初めにサービス介助士を取得しました。そこから、介助の取り組みやお客さま応対、お子さまへのおもてなしなど色々な取り組みをするチームとしてスタートしました。
今はグランクラスの清掃をメインに担当しており、東京サービスセンターにおける「おもてなしのトップランナー」、そういった存在がコメットスーパーバイザーです。
ーーグランクラスだと清掃する際の意識や心構えも違ってくるのでしょうか?
茂木さん全然違います。
普通車でもグリーン車でも心の込め方、気の遣い方は一緒ですが、グランクラスはより気を遣わなければならないですね。
ただ、お客さまに綺麗な車内空間を提供するのはコメットだろうが基地清掃だろうが変わらない、そこはスタッフの共通認識としてやっています。
小沢さん基地清掃の場合、お客さまはいらっしゃらないですが、清掃した車両にお客さまがご乗車いただくということを想像して、「乗車してよかったな」と思っていただけるように心がけて清掃していますね。
茂木さん東京駅が7分間で清掃できるというのは、基地清掃のスタッフが、駅で清掃できない細かいところをやってくださるからこそだと思います。
本当にありがたいです。会社一丸となって頑張っています。
ーー貴社では「エンジェルリポート」という、社員同士の良い行いを報告し合う取り組みをされていると伺いました。
小沢さん月間のレポートをまとめてスタッフの見えるところに置いているのですが、自分のことが書かれていると「こんなところを見てくれていたんだ」と驚いたり照れたりしますね。
仲間・上司から見てもらっていると思うと、その後の自信や頑張りに繋がりますね。
茂木さん社会人になると、学生の時と比べて褒められる機会が減ると思うんですよ。でも、TESSEIは「ありがとう」と言われることや褒めてもらえることが多いように感じます。
書かれるのも勿論嬉しいですが、「この人はこういうことをやっているんだ」と知ることができると書く方も参考になりますね。書かれていることに対して次は自分もやってみよう、というような。
ーー「エンジェルリポート」などから窺えるように、貴社は社員の笑顔、お客さまの笑顔をとても大切にされているように感じます。そういった精神はどのように引き継がれているのでしょうか?
奥田さん先ほどの村上さんの話にもありましたが、当社が「お客さまを意識して仕事をしていこう」というように、単なる清掃業からサービス業への意識改革を志した2006年からエンジェルリポートを始めています。
一つ自慢すると、エンジェルリポートはどんどん提出件数が増えているんです。実はJR関係の会社や職場などの色々なところでやっている取り組みなのですが、いつの間にか無くなってしまうことが多いと聞いています。
ただ、当社のような黒子役のように地道な作業を行う会社では、褒めるまではいかないけれどその人なりに頑張ってくれている人たちで成り立っていることなどを踏まえ、「お互いに仲間として大切にしていこうよ」という風土を目指して、“褒める活動”というよりは“認める活動”ということを意識して、エンジェルリポートを推進しています。
茂木さん言葉で伝えるのも大事ですが、それを機械的な文字ではなく直筆で伝えるのが一番嬉しいです。少し恥ずかしいですけど。
奥田さん当社に入ってくるのは、なかなか他の会社で同僚との関係や仕事が上手くいかなかった人が多いんです。清掃ならできるかな、というような。
エンジェルリポートで、ある人が取り上げられたことがあります。仮にAさんとしましょう。
Aさんは仕事が覚えられなくて、前の会社でもそれで辞めざるを得なかった。でも、その取り上げてくれた上司が「AさんはAさんなりに一生懸命やっているじゃないか」「汗をかいて仕事をやっているじゃないか」と、そんなエンジェルリポートを書いたんですね。
それを見たAさんは当時の所長のところへいって、「自分のことをこう書いた人を教えてほしい」「初めて周りから認めてもらえて、受け入れてもらえた。お礼を言いたい」と訴えたそうです。
働くことに対して成功体験のなかった人、体力的にキツイいけど働かざるを得ないなど、いろいろな事情を抱えて頑張っている者同士に、お互いに認めあいながら、共感しあいながら、たくさんの事例を出して益々、良好な関係を築いていってほしいですね。
そしてそういったように社員がエンジェルリポートに純粋に取り組むことで、それが仕事にも反映されているんだと思います。
お困りのお客さまの力になりたい、率先して力になりたい。先輩や上司が積極的に出しているからこそ他の社員もどんどん出してくれる、そういうことも起きています。
先にも言いましたが、そうやって背中を見せていくことで、続いているものがあるのだと思います。
ーーお客さまは勿論、ともに働く仲間の力になりたいという想いで先を走る人の背中に、後ろを走る社員の皆さんが続いているのですね。貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
障害のあるお客様や高齢のお客様への応対を実技でも学べる資格
サービス介助士
日本の高齢者人口3,625万人! - 超高齢社会と認知症の推移(2024年版) -
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毎年敬老の日に合わせて総務省統計局から発表される日本の高齢者人口。最新の発表によると2024年9月現在の高齢者人口は3,625万人、高齢者人口率は29.3%となりました。超高齢社会が進むと切り離すことのできないテーマが認知症です。これからも社会の高齢化が進行するとどのようなことが起こりえるのか、高齢者に関する様々なデータを見ながら考えていきましょう。
南海トラフ地震と障害のある人への防災対策:防災介助士の視点で解説
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南海トラフ地震は、今後30年以内に70〜80%の確率で発生すると予測されています。この巨大地震に備えて、特に障害のある方々とその家族、そして企業は十分な準備が必要です。本記事では、防災介助士の視点から、障害のある人のための具体的な対策について解説します。
バリアフルレストランinアサヒグループホールディングス株式会社 様
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アサヒグループホールディングス株式会社様でDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を考えるイベントとして初めて開催される「DE&I DAY」にてバリアフルレストランを実施しました。これまで市民向けや学校での開催がメインだったバリアフルレストランを企業様での取り組みの一環に取り入れていただき、DE&I推進にも欠かせない“障害の社会モデル”を体感できるプログラムを提供しました。