障害者差別解消法の合理的配慮 企業・事業者の対策と取り組み事例

事前的改善措置と合理的配慮

障害者差別解消法が改正され、民間事業者においても合理的配慮が法的義務化されました。
これにより共生社会へのより一層の推進と、障害を理由とした差別に対する一般的な意識が啓発されることが考えられます。
企業として具体的にどのようなことをすればいいのか、どこまで対応すればいいのか分からない、という懸念を持つかもしれません。
ここでは合理的配慮の考え方や進め方を紹介していきます。

合理的配慮の基本的な考え方

合理的配慮という言葉から、障害者の要望を全て応えるもの、というイメージを持つ人もいますが、合理的配慮には基本的な考え方があります。

参考:内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」外部サイト

社会的障壁の除去

まず基本として合理的配慮とは、思いやりや善意の行為ではなく、障害者の権利利益を阻む社会的障壁を除去するために必要かつ、適当な変更や調整というものです。

社会的障壁には主に4つに分けることができます。

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内容
事物の障壁施設や設備などによる障壁
制度の障壁ルールや条件などによる障壁
慣行の障壁明文化されていないしきたり、情報提供など
観念の障壁無知、偏見、無関心など

個別のニーズ

障害者差別解消法では「障害の社会モデル」の考えに則った障害のとらえ方をします。
心身機能の障害と社会的障壁との関係から障害が作られるため、その関係の在りようはその人やその状況により異なります。
したがって、合理的配慮は、個別性の高いものになります。
また、必要とする合理的配慮は人により異なるため対話を通じた、プライバシーを含んだ意向を尊重されたものになります。

関連記事障害の社会モデルとは?(別のウィンドウで開く)

過重な負担にならない範囲

合理的配慮は、“実施に伴う負担が過重でないもの”とされています。
基本方針では以下のような要素を総合的・客観的に判断することが必要とされています。

  • 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
  • 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
  • 費用・負担の程度
  • 事務・事業規模
  • 財政・財務状況

例えば、以下のようなケースで考えてみましょう。

とある旅行代理店で、受付カウンターで案内業務対応を1人のスタッフで担当していました。

店内は案内を待つお客様で混雑してきており、カウンター前に数人案内を待って並んでいます。

その列の中に聴覚に障害のあるお客様が案内の順番に来ました。

そのお客様はカウンターでスタッフに“聴覚障害があるため筆談でお願いします”というメモを渡しました。

そのメモを見たスタッフは、案内内容を頭の中でイメージしたところ、慣れない筆談でやると通常より2倍以上時間がかかると見積りました。
店内の混雑状況を考慮し、そのスタッフはお客様に“現在店内が混雑しているので空いている時間、夕方に来てください”とメモを渡しました。

・・・事業者側からすると、慣れない筆談対応で時間がかかり他のお客様へのご迷惑になるので、事務・事業への影響、負担の程度という観点から過重な負担である、と判断したので合理的配慮の提供をしない正当な理由であるように思えます。

では、別のケースで考えてみましょう。

心身に障害はないものの非常に慎重な性格のお客様がいらっしゃり、確認を希望されている項目を説明しようすると、通常より2倍以上の時間を要するとします。

この際も事務・事業への影響・負担の程度を勘案して、店舗が混雑しない時間に来るように説明するでしょうか。

このように、求められる合理的配慮の提供が過重な負担であるかどうかは、事業者が判断するものですが、総合的、客観的に考えなければなりません。

対応要領においても、合理的配慮の具体的な対策を検討せずに過重な負担を拡大解釈することは法の趣旨を損なうものとしています。
過重な負担であると判断した場合であっても、障害者へ建設的対話を通じてその理由への理解を得ることを努め、同時に、過重な負担にならない代替措置を提案することが求められます。

参考:内閣府「関係府省庁における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」外部サイト

合理的配慮の位置付け

事前的改善措置(環境整備)と合理的配慮の関係性

合理的配慮は、その障害者の障害やその時求められる社会的障壁除去の具体的な場面によって異なるため、個別性の高い調整です。
そういった個々の障害者のニーズへの個別対応という意味合いが強い合理的配慮の前になされるべきものが事前的改善措置です。
事前的改善措置とは簡単に言うと、施設のバリアフリー化などの環境整備のことです。
合理的配慮のように“この人に対しての応対”というよりも、不特定多数が対象となるものです。

例えば、段差がある入口で、障害者へ簡易スロープの設置や段差を越える介助をすることは合理的配慮ですが、エレベーターやスロープなど設置・改築することは“この人に対して”というものでもなく、不特定多数の人が対象となる事前的改善措置です。
このような意味合いから事前的改善措置は、ハード面でのバリアフリー対策が主な対象と思われがちですが、例えば従業員に接遇(介助)を応対するための研修を受けることや、サービス介助士を取得した従業員を配置する、といったソフト面も事前的改善措置となります。

事前的改善措置と合理的配慮の関係性は以下のような図で表すことができます。

このように、ある社会的障壁に対して平等に機会を獲得するためには、人によって必要な合理的配慮は異なるということが分かります。

Bさんのように、事前的改善措置のみで個別の合理的配慮がなくとも機会を獲得できることが望ましいですが、画一的な措置だけでは対応できません。

例えば、申込みの際に、従来は紙での申込のみ受付としていて、自筆で記入できない視覚障害者や、来店することのできない人が申込みできないということがありました。
この時に事前的改善措置としてオンライン申込を導入したことで、視覚障害者や車いすユーザーも申込できるようになりました。
ところがオンライン申込としたところで、インターネット利用が困難な人が申込みできなくなる、や、普段利用している読み上げソフトでは利用できない視覚障害者もいました。

このような困りごとを全て技術的な措置で対策することは現実的には難しい場合もあり、個別の対応が求められます。
事前的改善措置を行いながら、個別で発生する事案に対して柔軟に対応することは、今後いかに技術が発展しても完全に無くなることはありません。

合理的配慮のポイント

合理的配慮の基本的な考えをもとに、提供をするポイントをお伝えします。
事業者が合理的配慮の提供するにあたっての指針が各省庁で発行されています。

参考:関係府省庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針外部サイト

①本来業務に付随するもの

例えば航空運送業において客室乗務員が搭乗される人のご案内を業務としていますが、包帯の交換などの医療行為や、食事・排泄の介助などは本来業務にはあたらないものと言えます。

②機会平等がなされるもの

障害のない人と平等の機会を提供するための合理的配慮なので、そもそもそれが実現できないものは合理的配慮の不提供と言えます。

③事業内容や目的の本質的変更を伴わないもの

その事業者が提供するサービスやそもそもの事業の本質が変わるような変更を要する場合、合理的配慮の不提供には当たらないと考えられます。
例えばある私立大学に在籍する車いす使用の学生が、通学が困難なため教授と学生同士の議論が行われるゼミ授業をオンラインで受講したい、という希望があったとします。
従来であれば、議論は対面で行わないと成り立たないと考えられたため、授業の本質を変えることになってしまうと考えたかもしれません。
しかし、オンラインツールでのミーティングなどが普及したことで、これまで対面で行わないと実施できないと思われたコミュニケーションも全く不可能ではない、本質を変えるものではないということが分かりました。

このように、社会や技術の発展と共に合理的配慮は常に変わっていくものであります。
また、合理的配慮の提供ということをきっかけに、自分たちが提供するサービスの本質とは何か? 現状の運用以外に手段はないのか?といったサービスの見直しにもつながります。

合理的配慮の提供の流れ

それでは合理的配慮の提供にあたってどのようなプロセスがあるかお伝えしていきます。

情報公開

これは先述の事前的改善措置にあたる部分になります。
提供するサービス利用にあたって、バリアフリーやアクセシビリティに関する情報だけでなく、どのようなバリアがあるかということを提示することも、その人がどのような合理的配慮が必要かを判断する材料になります。
そして、合理的配慮の提供に関する問合せ先・相談窓口などに関する情報も掲示します。

意思表明

社会的障壁の除去のための合理的配慮の提供を必要としていることを当該の障害者からの意思の表明を受け付けます。
会話のやりとりだけでなく、筆談やジェスチャーなど、その人がコミュニケーションを図るために必要な手段で行うことも含まれ、本人ではない家族や介助者などを介したコミュニケーションも意思の表明にあたります。
この際に、表明がしやすい環境を整えることも重要です。
コミュニケーション手段の用意だけでなく、障害について他の人に知られたくない、という人もいますので、プライバシーなどにも配慮しましょう。
また、仮に意思の表明がなくとも、明らかに社会的障壁の除去が必要な場合、必要とする配慮を提供するための対話に努めることが望ましいです。

対話を通じた合理的配慮の提供実施

これまで説明した考え方やポイントをもとに本人が必要とする合理的配慮を提供します。
別の記事でも説明していますが、合理的配慮の“合理的”はどちらか一方の都合に適した合理性ではありません。
このためにも対話を通じた双方の合意形成が欠かすことができません。

関連記事障害者差別解消法で法的義務化される合理的配慮とは?

検証

本人に提供した合理的配慮が適切なものであったか、見直し・改善を継続します。
この際に本人からのフィードバックを得ることができるのが望ましいです。
事業者内においても合理的配慮の提供事例を共有することで内部での蓄積を進めます。
また、同じようなケースの合理的配慮の事例が多くあったり、本人との関係性が長期に渡ったりする場合は、合理的配慮の提供ではなく、事前的改善措置を検討することがいいでしょう。
合理的配慮が続く場合、それは個別の調整というより、サービス利用全般における潜在的ニーズの発見にもなりえます。
また、中長期的視点に立つと事前的改善措置を行うことがコストの削減や効率化にもつながるということも考えましょう。

障害者差別解消法で企業のとるべき対策

合理的配慮についての流れが分かったところで、障害者差別解消法全般における企業や事業者が取るべき対策についてお伝えします。

障害の理解

社会的障壁の除去を求める本人との変更と調整という、個別性の高い合理的配慮を適切に提供するために、そもそも障害について理解することが重要です。
ここで言う“障害”とは、個々人の心身機能の障害といった特性への理解だけでなく、社会的障壁や障害の社会モデルという考え方に対して理解することなども含みます。
事業者の視点では、その人の困り事・障害は自分たち(事業者)が作っているかもしれない、という意識を持つことが大切です。
障害の理解に関しては、後述するサービス介助士などの外部研修の他に、内閣府の障害者差別解消法のリーフレットなどの教材を利用することもできます。

参考:内閣府 障害者差別解消法リーフレット外部サイト

相談・共有体制

意思表明の部分でもお伝えしていますが、障害者本人やその支援者からの問合せを受け付ける窓口を用意します。
これには新規で専用窓口を設置する必要はなく、既存の問合せフォームや窓口を活用して受け付けます。
この時対応する従業員には障害者差別解消法について理解できていることが望ましいです。
下記には事業分野別に省庁の相談窓口があるので何かある場合は問合せしてみましょう。

参考:事業分野別相談窓口(対応指針関係)[PDF]外部サイト

対応した案件は適宜社内で共有し、適切な合理的配慮提供の蓄積と、事前的改善措置の検討を図ります。

対話・人的応対力の向上の研修・事前的改善措置の検討

障害を理由とする不当な差別的事例の原因の多くは、対話の欠如や相互理解の不足が考えられます。

参考:第45回 障害者政策委員会「障害者に対する「不当な差別的取扱い」に関する主な相談事例」[PDF]外部サイト

障害者を「できない存在」という前提に立った対応や、過重な負担・合理的配慮不提供の正当な理由の拡大解釈、前例がない、といった理由もあげられますが、いずれにせよ対話・コミュニケーションが解決のカギをとなります。
これには管轄省庁の指針を遵守するだけでなく、従業員のコミュニケーション向上のための研修や教育が重要となります。

合理的配慮の事例

最後に合理的配慮に対してどのような対応をすべきか事例を紹介します。

■受付・カウンター案内における合理的配慮

内部疾患などの障害により、立って列に並んで待つことが困難
→周囲の人の理解を得たうえで、手続き順を入れ替えたり、順番が来るまでいすを用意して待っていただく。

■コンサートホール・研修会場などにおける合理的配慮

障害の特性により、頻繁に離席し、会場を出入りする必要がある。
→指定席を、出入口近くの座席にすることで離席しやすいようにする

■情報提供における合理的配慮

紙で配布される資料が墨字(点字以外で書かれた文字)印刷のため、視覚障害があると内容確認が困難
→内容の代読、事前に電子データで提供する。

■学校における合理的配慮

視覚障害のある受験生が試験内容を見ることができない。
→別室で試験内容・回答内容を代読・代筆対応し、時間延長措置を取る。

■会場の入場案内における合理的配慮

ICカードを利用した入場ゲートが車いす使用では入場が難しい。
→別途入場手続きをした後、別ルートから入場できるよう案内する

障害者差別解消法の企業の対策まとめ

障害者差別解消法が改正されることで民間事業者においても合理的配慮が法的義務化されました。
合理的配慮には必要なポイントや提供後の見直し、事前的改善措置との関係性など把握すべきポイントが多数あります。

個別性の高い合理的配慮を企業として適切に提供できるか課題になることもあります。
日本ケアフィット共育機構では研修や各種コンサルティングなど、課題に沿ったご提案をしておりますのでお気軽にご相談ください。

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様な人への対話のあり方、共生社会に必要な知識と心構えを、実技教習での実践、障害当事者とのケーススタディから学ぶ資格です。

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障害者差別解消法の対応に企業としてどの様なことをすればいいか分からない、そのような課題を様々なプランで解決のお手伝いをしています。

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高齢者や障害者とのコミュニケーションや介助、サービス提供のあり方を学ぶ資格「サービス介助士別のウィンドウで開く」は2000年から始まり、1000社以上の企業がバリアフリー施策、サービス向上、ダイバーシティ&インクルージョン推進の取組みとして導入しています。
企業として取り組むべき障害者差別解消法の理解や合理的配慮の浸透支援など、共生社会の実現に向けた様々な取組みを展開しています。

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